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人手不足、バブル期並み 経済財政白書

 石原伸晃経済再生担当相は21日の閣議に2017年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。人手不足が1980~90年代のバブル期並みに深刻化していると指摘。労働者の生産性が米国の6割、欧州の8割と低水準にとどまる点とともに、日本経済が抱える課題に挙げた。人手不足など供給制約による低成長を打開するため、残業を抑えて多様な勤務形態を認める「働き方改革」を進め、生産効率を高める必要性を強調した。
 副題は「技術革新と働き方改革がもたらす新たな成長」とした。安倍政権下の景気回復が戦後3位の長期に及ぶ一方、賃金や消費が伸び悩んでいる点にも言及。ITや人工知能(AI)など生産性向上に役立つ先進技術の活用を企業に促した。
(共同通信 7月21日)

日本経済は、記録的な低失業率と人手不足が続く一方、賃金の上昇は限定的で、消費が伸び悩む状況から、長らく抜け出せないでいる。経済財政白書は、この状況から脱却するために、生産性の向上が必要だと指摘しているが、日本よりも生産性の高い米国においても、失業率低下と賃金上昇が連動しない状況が続いている。

その原因のひとつは、生産性の高い、すなわち、賃金の高い業種から、生産性が低く、賃金の低い業種へ労働需要がシフトしていることだ。サービス業のパートやアルバイトの求人が増加すれば、失業率は低下するが、一方で、製造業の正社員が減少し、賃金が抑制されれば、国民経済全体の平均賃金は伸び悩む。

このような構造変化による影響は、AIやITを自然な経済原理に任せて活用するだけではカバーできない。むしろAIは、金融など比較的生産性の高い労働を自動化する傾向にある。AIは、「機械=単純作業の自動化」という固定観念を変え、機械が人間の知的判断を代替する可能性を広げた。今日まで、ITは銀行の窓口業務の生産性を飛躍的に向上させることに貢献してきたが、今やAIは資金運用を担う高給のディーラーの代わりを務めている。このトレンドが続けば金融業界の賃金は伸び悩むだろう。

AIやITの活用によって生産性を向上させ、賃金を上昇させるためには、現に人手不足が深刻化している業務の生産性向上に寄与する応用に投資を集中して研究する必要がある。国が施策として取り組むべき課題はここにある。

谷萩 祐之

著者情報:
谷萩 祐之

1958年生まれ、早稲田大学理工学部数学科卒。富士通株式会社でソフトウェア事業、マルチメディア事業、グローバル事業、コンサルティング事業を担当した後、現在、谷萩ビジネスコンサルティング代表。経営コンサルティングの傍ら、雑誌等で執筆活動を続ける。著書:「Webが変わる プッシュ型インターネット技術入門 」

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