2016/03/28
政府は長時間労働に歯止めをかけるため企業への指導を強める。1カ月の残業が100時間に達した場合に行う労働基準監督署の立ち入り調査について、基準を月80時間まで引き下げる方向だ。労働基準法(総合2面きょうのことば)違反があれば是正勧告などの措置をとる。労働の生産性を高めて長時間労働を減らすことで、子育て中の女性や高齢者が働きやすい環境を整える狙いだ。ただ目先は企業にとって負担となる可能性もある。
政府が25日に開く一億総活躍国民会議で、長時間労働抑制の具体策として示す。5月にまとめる「ニッポン一億総活躍プラン」の働き方改革の柱の一つとして盛り込み、年内にも指導を強める。20万超の事業所が対象になる見通しだ。
立ち入り調査の対象となるのは、80時間を超える残業をしている従業員が1人でもいると疑われる企業。実際は労基署の監督官の数が限られるため従業員による通報などを通じて悪質な企業を把握し、重点調査する。
これまでは従業員の残業が月100時間を超えると心臓疾患などのリスクが高まるとの医学的な根拠に基づき企業を立ち入り調査してきた。今後は基準を厳しくし、80時間を超える残業があった企業を立ち入り調査の対象とする。これだけの時間の残業が何カ月も続くと、やはり心臓疾患などにつながるとの見方からだ。(中略)
15年の労働力調査によると全国の常勤労働者の数は約5000万人。このうち100時間超の残業をしている人は少なくとも約110万人いる。80時間以上の人は約300万人で、今回の指導強化で調査対象となる働き手は2.7倍になる。
(日本経済新聞 3月24日)
長時間労働が慣行となっていることが、女性や高齢者などの社会進出を阻害している要因のひとつになっていることは事実だ。したがって、行政が、行き過ぎた長時間労働を抑制するために監督強化に乗り出すのも正しい施策と言える。
ただ、80時間以上残業している職場は多い。80時間を超える残業をしている従業員が一人でもいると疑われる企業となると、ほとんどの大企業が該当する。同様に、企業ではないが霞が関の中央官庁も該当することになる。
また、年平均では80時間を切っていても突発的な事情で80時間超の残業をせざるを得ないこともある。震災や水害などの大規模自然災害では、自治体の職員や被災企業の従業員は不眠不休で働く。先日の全日空のシステムダウンのように社会的影響の大きなトラブル対応では、担当者は復旧と再発防止のために徹夜の作業を続けるだろう。このような場合、専門知識が必要なだけに、代替要員も限られる。今回の労働基準監督署による監督強化が、法改正ではなく、運用の見直しによって行われるのは、一律に禁止することの弊害を国も認識してのことだろう。
もし、このような行政の裁量による監督強化ではなく、法改正によって長時間労働を抑制するならば、残業手当の増額の方が効果的だ。たとえば、80時間以上の残業に対しては定時内の時給の3倍以上支給することを義務付けたとすると、従業員に恒常的に80時間以上の残業をさせるより、従業員の数を増やした方がよいと判断する企業は増える。加えて、サービス残業に対する罰則を強化すれば、さらに、実効性は高まるだろう。市場原理によって、経営者が自ら長時間労働抑制に向かうよう仕向けることも考えるべき施策のひとつだ。
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