光や温度を人工的に制御した環境で農作物を育てる「植物工場」。その事業化の動きが相次いでいる。これまでは農業とは縁が遠かったエレクトロニクス企業などを巻き込んだ“異種格闘技戦”の様相を呈し始めた。
参入各社は植物工場を、センサーネットワークやクラウド、LED照明、再生可能エネルギーといった新技術の実験場として活用するとともに、“安全・安心な食”に対する世界的な関心の高まりを受けて、新たな輸出産業に育てようと目論む。空洞化が叫ばれる国内製造業の“受け皿”となっている側面も見逃せない。
ここにきてとりわけ目立つのが、大手エレクトロニクス企業の注力ぶりだ。代表格といえるのが富士通。同社はクラウドサービス事業の注力分野の一つに食品・農業を掲げ、食・農クラウド「Akisai(秋彩)」を提供中。2014年7月には、植物工場における作業実績や育成情報をロット単位できめ細かく管理できる生産管理システムを、Akisaiのラインラップに追加した。
富士通はAkisaiの効用を自ら検証する場として、「会津若松Akisaiやさい工場」を福島県会津若松市に立ち上げた。同市に拠点を置く会津富士加工が持つノウハウを活用し、カリウム摂取量が制限される腎臓病患者などに向ける低カリウムレタスを生産している。この工場がユニークなのは、遊休施設となっていた半導体クリーンルームを転用した点だ。「通常の栽培環境よりも雑菌が桁違いに少ないため、日持ちのする野菜を作れる」(富士通)。
遊休施設を活用するだけでなく、「半導体のロット/品質/原価管理のノウハウを農業に適用する」(富士通)試みでもある。このため、富士通は会津若松Akisaiやさい工場の生産管理担当者に、半導体生産を担当してきた技術者を配置した。今後はAkisaiを活用し、栽培環境と作物品質の相関などを定量化していきたい考え。その成果を、Akisaiを植物工場分野に広く展開していく上でのリファレンスデータとして活用する狙いである。(日経テクノロジーオンライン8月22日)
日本の半導体産業の衰退に伴い、日本の電機メーカーは半導体事業の売却に動いた。多くの売却先は外資であったため、国内の半導体工場には買い手がつかず、遊休設備と化していた。
半導体の製造には、製造過程で微細なゴミが付着するのを防ぐため、高性能のクリーンルームが必要となる。富士通は、このクリーンルームを取り壊し、平地にして工場用地を売却するのではなく、クリーンルームをそのまま植物工場に転用した。クリーンルームは害虫や雑菌の侵入を防ぐ。温度管理も万全だ。植物工場の設備としては理想的ともいえる。
路地栽培では害虫駆除のために大量の殺虫剤を使用するが、植物工場ではその必要はない。また、原発事故の風評被害に悩まされる福島県にとって、外界と隔絶され、土を使わない植物工場は農業再生の契機として期待できる新産業でもある。
富士通以外の日系電機メーカーも植物工場に乗り出している。
パナソニックは2014年7月、シンガポールでサニーレタスなどを栽培する屋内野菜工場を稼働させた。生産した野菜はシンガポール国内の日本食レストラン「大戸屋」に供給する。
東芝は2014年5月、植物工場「東芝クリーンルームファーム横須賀」を神奈川県横須賀市に立ち上げ、レタスやホウレンソウなどの無農薬野菜の事業化を発表した。
シャープは、アラブ首長国連邦のドバイでイチゴの植物工場の実験棟を稼働させている。
各社とも、まだ、事業規模は小さいが、今後の成長は期待できる。ただ、多くの企業が海外での事業化を先行させていることには、日本の農業に関する規制が厳しいことも関係している。安倍政権は農協の既得権に切り込む姿勢を見せてはいるが、株式会社の農業への自由な参入はなかなか認められそうにない。早急な規制緩和が望まれる。
そうでなければ、海外の植物工場で生産された野菜が日本市場を席巻する日が遠からず到来するかもしれない。
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