障害者スポーツの選手にも、試合や練習に専念できる「アスリート雇用」が広がってきた。2020年東京パラリンピック開催で関心を持つ会社が増えたうえ、障害者雇用を義務付けるルールが厳しくなることが背景だ。競技環境の確保に苦労してきたアスリートには朗報。ただ、この流れを腰の据わった支援につなげられるかが課題だ。
車いす(ウィルチェア)ラグビー日本代表の乗松聖矢(25)は造船会社の子会社で船の設計をしていた。だが週5日のフルタイム勤務で、忙しいと平日の練習時間がとれない。有給休暇が尽きれば遠征への参加は無給扱い。「金銭的に大変だった。昨年初めて強化指定選手となり、練習量を増やさないと生き残るのは厳しいと思った」
そこで4月にSMBC日興証券に転職。人事部に配属、月1回東京の本社へ報告に来る以外は、地元熊本で競技中心の生活だ。健常者の企業アスリートと同様、スポーツを通じて会社の広報活動をしつつ、「練習に集中できるようになった」。
SMBC日興証券はこの春、乗松を含め一気に7人の障害者アスリートを初めて採用した。企業は全社員の2%は障害者を雇用することが法律で義務付けられ、この雇用率は3年後に引き上げられる見込み。社員数が増えた同社は一時2%を切った。目を向けたのが障害者アスリート。「法定雇用率の達成と、目に見える障害者の雇用をやりたかった。社員の障害者に対する意識も変わってくれれば」と同社人事部。
日興アセットマネジメントも昨年11月以降、車いすラグビーの選手3人を採用した。黒枝一代人事部長は「多様な人材を入れる一環として、障害者雇用を積極的にやろうとなった」と語る。
(日本経済新聞 6月9日)
障害者のスポーツ選手の雇用が拡大していることは、障害者アスリートだけでなく障害者全体の雇用機会の増大につながる。
東京でのオリンピックとパラリンピックの開催が決まったことで、企業としてもその宣伝効果を狙っている面もあるのだろうが、社外への効果だけでなく、社内への効果も期待できる。
障害者でもやり方や器具を工夫すれば、健常者と同様のパフォーマンスが実現できることを目に見える形で示してくれることの意味は大きい。
社員の2%は障害者を雇用すると会社の方針を決めても、各職場では、障害者にどのように業務に参加してもらうべきか、適切な解を見出すことが難しいこともある。そのようなとき、普通の健常者以上の能力を発揮してスポーツを行う障害者アスリートの姿は、それぞれの職場に、様々な工夫の余地が残されていることを教えてくれるだろう。障害者アスルートをリスペクトするだけでなく、そこから組織が学ぶことが重要だ。
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