Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

最賃上げ、背景に人材獲得競争 人件費増、就労抑制で倒産増も

2024年度の都道府県別最低賃金は、東北や九州、四国を中心に国が引き上げ額の「目安」として示した50円を大幅に上回った。背景には、都市部や隣県に働き手を奪われまいとする人材獲得競争の激化がある。ただ、企業にとって急激な賃上げは、人件費の増加や「年収の壁」を意識した就労時間の抑制による「人手不足倒産」も招きかねない。地域経済への弊害も懸念される。
 最低賃金引き上げを巡っては、人材流出を防ぎたい地方自治体の首長から、議論する地方審議会への要請が相次いだ。徳島県は現状の最低賃金は経済の実態よりも低いとし、大幅な引き上げを求めていたが、29日に異例の84円増で決着。後藤田正純知事は「他県との競争力や若者の流出を防ぐ観点からも評価できる」とコメントした。
 昨年度、全国最下位だった岩手県は他地域の結果が出そろう8月下旬まで決定を遅らせ、最下位脱出となる59円の引き上げを決めた。
 ただ、帝国データバンクによると、人件費の高騰や採用難による人手不足倒産は、今年1~6月に182件と、比較可能な13年以降で同時期として過去最高となった。
(時事通信 8月30日)

財務省が取りまとめた2024年4〜6月期の法人企業統計で、懸念される状況が明らかになった。大企業の人件費が前年同期比1.1%増だったのに対して、中小企業は6.7%増だった。採用強化や離職防止に向けた賃上げだろうが、それだけの余力があるかどうか。やむを得ない賃上げは経営を圧迫しかねない。
実際、東京商工リサーチによると「中小企業では4年ぶりに賃上げ実施率が低下するなど、一部では賃上げへの息切れも顕在化している」という。同社の調査では、24年1-7月の「人件費高騰」倒産は60件。前年同期の29件から大幅に増え、過去の年間最多も更新した。
この苦境に最低賃金の引き上げで拍車がかかることが懸念される。東京商工リサーチは次のように指摘する。
「最低賃金の上昇は非正規社員の労働時間の短縮につながり、人手不足の悪化を招きかねない。安定的な賃上げは、企業の自立的な売上増やコスト削減など収益強化策に加え、政策・制度の面からも支援が重要になっている」
 今冬の賞与を前年比で顕著に増額できる中小企業は少ないのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。