2024/12/26
後継者難を理由に「60万社に黒字廃業の可能性がある」とした2019年の国の警告から5年、中小企業の事業承継が変わり始めた。創業家が所有と経営を分離して親族以外にバトンを渡す事例が増えている。
国内で初めてステンレス製のネジを量産した丸ヱム製作所(大阪府大東市)は23年5月、創業家から生え抜きの石本謙一氏に社長が代わった。27年に創業100周年を迎える丸ヱムで石本氏は6代目となる。親族を中心に代替.わりしてきた創業家に有力な候補が見当たらず、医療関連事業の立ち上げに貢献してきた石本氏に後事を託した。
同時に丸ヱムは次の経営陣を育成するため、幹部7人を対象にした勉強会を立ち上げた。石本氏は「今から社長候補を育て、技術を確実に次に引き継ぐ」と意気込む。
国は製造業なら従業員300人以下、資本金3億円以下の企業を中小企業と定める。上場企業のように利益の最大化を目指す社長は少数で、会社を家業と捉えて親族に引き継ぐことを優先するケースが多かった。だが、過去20年で少子化が進み、同族承継のハードルは格段に上がっている。
(日本経済新聞 12月16日)
親族に後継者がいない場合、親族外の経営幹部から社長を起用する人事が困難だった理由は経営者保証の壁があったからだ。親族外の内部昇格者に対してメイバンクが保証能力に疑問を示し、内部昇格人事を受け入れなかったという事情があった。
この通弊にメスが入ったのは2020年。「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置付けられている「経営者保証に関するガイドライン」に①前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止②後継者との保証契約は、事業承継の阻害要因となり得ることを考慮し、柔軟に判断③前経営者との保証契約の適切な見直し――を盛り込んだ特則の運用がスタートした。
特則によって経営者保証なしで融資を受けられる道が開け、親族外の内部昇格人事で事業承継に着手できるようになったのである。
ただ、中小企業では多くの場合、社長に人脈とノウハウが一元化されているので、その引き継ぎが難題だ。事業承継には5年程度を要するという統計もあるが、人脈とノウハウの継承は一朝一夕にはいかない。「社長の最も大事な仕事は次の社長を育てること」といわれるのも、この難題を踏まえた教えである。
その点、丸ヱム製作所が次の経営陣を育成するために、幹部7人を対象に勉強会を立ち上げたことには注目したい。
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