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内部通報者への不利益に罰則 消費者庁が導入案

企業や官公庁の不正を告発した内部通報者への解雇や懲戒といった不利益処分に対し、消費者庁が刑事罰を導入する方針であることが5日、分かった。同庁の有識者検討会が今後、具体的に議論する。「報復人事」を恐れて通報をためらうケースは少なくない。通報者を保護し、公益通報制度の実効性を高める。
公益通報は兵庫県前知事が内部告発された問題などで制度の課題が指摘された。現在は内部通報者への不利益な取り扱いを禁止しているが罰則がなく「抑止効果が不十分」との声が出ていた。
消費者庁が6日の会合で公益通報者保護法改正に向けた素案を示す。刑事罰は解雇や減給といった懲戒処分など「不利益性が客観的に明確で労働者への影響が大きい」行為を対象に想定する。
配置転換は定期的に人事異動を行う日本企業の人事や労務管理に影響があるとして対象外となる見通し。違反した個人のほか、両罰規定を設けて法人も罰則対象とする方針。検討会は年内にも制度全体の見直しについて報告書をまとめる。
(日本経済新聞 11月6日)

公益通報者保護法が施行されたのは2006年。「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者が、正当な理由がなく、公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる事項を漏らした場合には、30万円以下の罰金の対象となる」と規定されているが、18年を経たいまもなお真っ当に機能していない。
施行の当初から企業・官公庁側は通報者を「犯人」とみなしたうえで「犯人捜し」と称して通報者の特定に走り、人事上の不利益を与えることは十分に想定されていた。
施行当初、東京地検特捜部出身の弁護士は「企業内に相談窓口を設けても、通報者の担当役員に通報者の氏名と通報内容が報告されるだろうから、窓口は通報者を保護できないだろう」と指摘。代替策として「通報窓口を弁護士事務所に設けるのがよい。弁護士には守秘義務が課せられているから通報者の発覚を防止できる」と提言した。
 それにしても、なぜ通報者に対して報復人事が後を絶たないのか。企業・官公庁はムラ社会だ。ムラ社会では法律よりも掟が優先される。不正事案に対しては解決よりも、体面を保つための隠ぺいが掟であるため、通報者は掟破りの裏切り者として報復の対象に定められてしまうのである。
 消費者庁が検討している不利益処分への刑事罰導入で、人事異動を対象から外す見通しというが、以前から人事異動の利用は多かった。通常の異動と説明でき、報復措置を糊塗しやすいからだ。法律よりも掟を優先する組織風土が改まらない限り、人事異動による報復が増えるのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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