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株式報酬、社員にも 1176社に拡大 経営参加意識づけ

企業が社員に株式報酬を出す動きが広がっている。導入企業は2024年6月末で1176社に増え、過去最高となった。社員に経営参加を意識づけし、業績改善につなげる。人手不足が強まるなか、現金よりも資産性の高い株式を配ることで優秀な人材をつなぎ留める狙いもある。
野村証券によると、社員向け株式報酬を導入した企業は6月末時点で1年前から187社(19%)増えた。導入社数は東京証券取引所上場の約3割に当たる。一定期間売却を制限する株式や信託を使って自社株を渡す方式が多い。役員向けが中心だった株式報酬が社員向けにも広がってきた。
要因の一つは、東証が23年3月に上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営」を要請したことだ。企業が資本効率の改善を加速するには、経営改革を組織全体に徹底する必要がある。社員に株式報酬を出すことで、経営者と同じ意識を持たせる。
森永乳業は6月から従業員向けの株式報酬制度を導入した。信託を通じて取得した自社株を一定の条件のもとに従業員に渡す。
(日本経済新聞 9月10日)

株式報酬の特典付与には離職防止という意図も含まれている。社業に一定期間貢献した場合に恩恵を得られるという仕組みで、その一定期間には業績に浮沈も起こり得る。社員は「稼ぎ逃げ」ができない。
たとえばRS(譲渡制限付き)割当株式を635人の社員に付与した丸一鋼管は「譲渡制限の解除条件」を定めている。
「対象従業員が、譲渡制限期間において、定年退職、死亡その他当社代表取締役が正当と認める理由により当社の従業員の地位を喪失した場合、当該喪失の直後の時点において、本RS割当株式の全部につき、本譲渡制限を解除する」
 定年まで勤めあげれば、いわば退職金に株式報酬が上乗せされるのだが、この仕組みは離職防止に作用するだろう。人材流動化が日本企業の重要課題に取り上げられて久しいが、企業はどこまで流動化を望んでいるのだろうか。確かに黒字リストラを行う企業は後を絶たないが、株式報酬制度の導入で社員の定着を図っている企業の増加傾向は、流動化とは逆の流れである。自民党総裁選では解雇規制の緩和が争点のひとつだが、実態を踏まえた政策論争が求められる。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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