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公務員給与、キャリア通し民より安く 初任給増も見劣り

 経済官庁の30歳代職員は10年前を思い出す。キャリア官僚と呼ばれる国家公務員総合職と新人から高給をもらえる外資系運用会社で大学卒業後の進路を悩んでいた。
「官僚には他の仕事にないやりがいがある」と迷いを振り切った。最近、同社に勤める友人が都心で高級マンションを買ったことをSNSに投稿したのを見つけた。「後悔がないかと問われれば、答えは難しい」と漏らす。
人事院は2024年度の給与改定で国家公務員一般職の月給を平均2.76%(1万1183円)、ボーナスを0.1カ月分それぞれ引き上げるよう内閣と国会に勧告した。月給増が2%を超えるのは1992年度以来となる。
総合職大卒の初任給について過去最大の増加幅となる2万9300円の増額を促した。大企業の背中が見える23万円に上がる。基本給にあたる「俸給」も30代後半までの若手に重点を置いた引き上げを勧告した。平均の年間給与は691万6000円となる。
若年層が組織の将来を担うのは官も民も変わらない。人事院が若手に焦点を当てて給与を増やすのは民間との人材獲得の競争に取り残されないためだ。
(日本経済新聞 8月13日)

 人事院勧告には「民間給与の状況を反映して、約30年ぶりとなる高水準のベースアップ」と書かれている。
給与改定の骨子に示しているのは①新規学卒者等の初任給を大幅に引き上げる②係長級から本府省課長補佐級までの職員に適用される俸給表の各級の最低額を引き上げる③ 勤勉手当の成績率の上限を引き上げ、最大で平均支給月数の3倍の手当を支給することを可能とする④特定任期付職員の勤務成績優秀者には現行制度よりも高い水準のボーナ スを支給することを可能とする⑤新幹線通勤に係る通勤手当や単身赴任手当について、採用時からの支給を可能とする――ほかにも人事制度や就労環境の改善などが記載されているが、若手職員の意欲を引き出す重要な施策が抜けている。
それは年功制の廃止である。実力主義人事に切り替えれば、30代の局長や40代の事務次官が誕生しても不思議ではないが、入省年次に基づく官僚組織の秩序が崩壊するので年功制の廃止はタブーなのかもしれない。
 学生の間で官僚の志願者が減少傾向を辿っていたり、若手官僚の離職が増えたりしている背景は、激務に比して給与水準が高くないことだけだろうか。たとえば中央省庁の課長就任は40代、局長は50代、事務次官は50代後半という幹部就任年齢が踏襲されたままでは、意欲にあふれた若者にとって魅力のある職場とはいえまい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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