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会社を“売る”中小零細が急増 後継者不在でМ&Aに脚光

大阪府内で服飾店を営む70代の経営者が、苦渋の決断をした。 「会社を売ろう。誰かに買収してもらうしか会社を残す方法はない」
年を重ね、社長を務めることが気力的にも体力的にも難しくなった。勇退し後進に会社を託そうと考えたが、社長のポストを任せられる人材がいないことに気が付いた。
「従業員の雇用のためにも、会社はなんとしても存続させないといけない。でも、誰に任せればいいのか…」  
思案に暮れていた時に目に留まったのが、「事業承継」に関するビジネスセミナーのチラシ。足を運んでみると、会社を残す選択肢として「M&A」があることを知った。すぐに仲介業者に連絡を入れ、話を進めることを決めた。  
この実例は、決して珍しいものでははない。後継者が見つからず、他の企業に買収されることで会社を存続させる中小企業は増加の一途をたどっている。M&Aは決して大企業の話ではないのだ。  
国もM&Aによる中小企業の事業承継を支援していて、今年秋にも支援を強化する策を実施する方針を示している。
(読売テレビ 8月15日)

M&Aが円滑に完了するかどうかは、ひとえに仲介者の手腕にかかっている。中小企業庁は2021年にM&A支援機関の登録制度を創設し、現在は2000件以 上のフィナンシャルアドバイザー(FA)・仲介業者が登録されている。
だが、あくまで登録制であり、中小企業庁が保有ノウハウや実績などを審査したうえで、お墨付きを与えているわけではない。現に支援機関をめぐって不適切な事案が発生しているようで、中小企業庁は、登録されたFA・仲介業者によって不適切な支援が行われた場合の情報を受け付けている。
どんな事案があるのだろうか。たとえば仲介業者とFAの違いの説明がなかったこと。
仲介業者はM&A支援機関との仲介契約締結前に譲渡側(売り手)と譲受側(買 い手)の両当事者と仲介契約を締結し、双方に助言して手数料を受領する。FAは一方当事者のみと契約をし、一方のみに助言するが、その違いが説明されなかったのである。
 あるいは手数料について十分な説明がされずに想定よりも高い手数料を払うことになったとか、価値評価についての説明がなかったとか、企業価値の評価手法について事前説明がなかったとか、さまざまな事案が発生しているという。
 適切なFAと仲介業者をどのように見極めればよいのか。売り手側にとっても買い手側にとっても、これがM&Aの第一歩である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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