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「子持ち様」批判を和らげる効果は? 同僚に「育休職場応援手当」

三井住友海上火災保険は2023年4月、育児休業を取得する社員の同僚に最大10万円を給付する「育休職場応援手当(祝い金)」を創設した。子育てを理由に仕事を休む人などを「子持ち様」とやゆし強く批判する声がSNS(ネット交流サービス)上で広がっており、  
そうした声を和らげる一つのヒントになるのではと注目を集めているが、この1年で職場の風土は変わったのだろうか。育休取得者や手当を受け取った同僚らに話を聞いた。
 同社によると、給付は23年7月から始まり、職場の人数や育休の期間に応じて同僚全員に3000~10万円が出される。最高額の10万円は13人以下の職場で、期間が3カ月以上という条件。24年2月末までに延べ約7000人が手当を受け取り、予算額は数億円に上るという。  
少子化対策となる制度の創設を検討していた同社では当初、子どもが生まれた社員に現金を給付する案が出ていたが、子どもがいない社員との間に不公平が生じることが懸念された。そのため、仕事を肩代わりする可能性がある同僚が心から喜べないような雰囲気を変え、育休取得者にも気兼ねなく休んでもらおうと、逆転の発想で同僚に手当を給付することにした。
(毎日新聞 6月13日)

子供がいる社員と子供がいない社員との間に不公平感が生じがちなのはやむを得ないが、この問題の根本は、お互い様という感覚を組織に浸透させることに尽きる。お互い様が理解や認識ではなく感覚の域にまで浸透すれば、不公平感など生じないだろう。
 お互い様の普及に取り組む一般社団法人ぷちでガチ(京都府)は、5月20日を「子連れの日®」(5月20日こづれ520と語呂合わせ)と定めて、アワードを開催した。
 お互い様の募集テーマを見ると「パートナー間のお互いさま」「働き方・働く場のお互いさま」「地域・コミュニティのお互いさま」「海外のお互いさま」「世代を超えたお互いさま」が示されている。
 この取り組みは、地域共生社会づくりにも通底している。地域共生社会とは厚生労働省の定義によると「社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、制度・分野ごとの縦割りや『支え手』『受け手』という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」。
 この定義の元になったのは、半世紀以上前の1950年代、デンマーク社会省の障害者施設担当官だったニルス・エルク・バンクミケルセンが提唱し、59年に成立した知的障害者福祉法に明文化された「ノーマライゼーション」である。高齢者や障害者が健常者と同等に生活のできる社会がノーマル(正常)という考え方だ。
 困ったときにはお互い様と向き合える組織やコミュニティならば、あえて制度設計は必要ないのだが――。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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