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大企業の2割「博士採用ゼロ」 経団連調査、競争力低下も

 日本企業で博士人材の活用が進んでいない。経団連が16日発表した調査によると、2022年度に博士課程修了者の採用数がゼロだった企業が23.7%に上った。能力に見合った仕事や待遇に向けた環境整備が遅れている。欧米に比べ高度人材の不足が目立ち、競争力が劣後する恐れがある。
経団連は博士人材や女性理工系人材の採用・活用に関する調査結果と提言をまとめた。123社が回答し、従業員1000人以上の大企業が87%を占めた。
回答企業の従業員のうち、博士号を取得している人の合計はおよそ1.2万人で全体の1%未満にとどまった。博士人材の人数が10人未満の企業は17.9%、100人未満は62%、200人以上の企業は20%だった。
博士人材の採用増や待遇改善に向けた意欲も鈍い。足元の22年度採用で博士人材が10人未満だった企業は76.4%に上った。非製造業では40%がゼロだった。
今後5年程度を見据えて博士人材の採用を増やす意向は2割あったが、女性理工系人材については6割が増員をめざしているのに比べると博士人材の採用意欲は低い。
理系博士人材のキャリア形成について情報発信している企業は1割程度と少なく、人材の処遇に関する訴求も十分ではない。経団連の長谷川知子常務理事は「企業の採用意欲は高くなく、業種や配属先も限定的だ」と指摘する。
(日本経済新聞 2月17日)

一般に博士号取得者は高度専門人材といわれるが、企業は何を期待して博士号取得者を採用しているのか。それを解明したのが「民間企業の研究活動に関する調査報告 2022」(文部科学省科学技術・学術政策研究所)である。
この調査報告によると、求めている博士号の人材像は「研究開発者としての資質や潜在能力が高いと考えられる人材」「取り組むべき新たな課題を自ら見出すことや、既存の方法を変革して新しい社会的価値を生み出すことが期待できる人材」の回答割合が多かった。イノベーションの推進役として期待しているのだ。
経団連の調査でも、今後博士号取得者の採用を増やす理由に「博士人材はイノベーション創出に必要な資質・能力・専門性を有しているため」が回答された。
一方、採用後の評価は、「期待を上回った」の回答割合が前年度より増加し、「期待を下回った」の回答割合は前年度より減少した(「民間企業の研究活動に関する調査報告 2022」)。
にかかわらず博士号取得者の採用が進んでいない理由は何か。
経団連の調査では、「実務を重視しているから」(47%)、「学位取得別の従業員数を把握していないから」(47%)が多かった。
博士号取得者の採用とイノベーション創出の相関関係が数値化されれば、採用は一気に進むのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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