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中央官僚採用で守り固める巨大IT、公取委は「内情通じた」人材引き抜きで対抗

公正取引委員会は、巨大IT企業からの人材引き抜きに乗り出す。巨大ITへの規制が強化される中、各社は中央省庁の官僚を採用して守りを固めており、巨大ITの内情に通じた人材を獲得して対抗する。
 巨大ITやその取引先で4年以上の実務経験がある人を対象に、10月に募集を始めた。特定の業種に絞って人材の獲得を目指すのは異例という。政府の規制が自社に有利になるように働きかける「政府渉外」の経験者を念頭に、まず1人を採用する。採用後は主に、公取委側に立って巨大ITと折衝する役割を担う。
 「GAFA」と呼ばれるグーグルやアップルなどの日本法人では、経済産業省や総務省、公取委の出身者が政府渉外の担当幹部を務めている。官庁の実務や政治家との折衝に通じた元官僚が政府との交渉を担う構図で、公取委は巨大ITの人材を逆に取り込んで折衝を有利に進めたい考えだ。
 任期は原則2年で、5年まで延長できる。給与水準は公取委の職員と同等だが、「政府で経験を積みたい人材は、若手を中心に一定数いる」(幹部)とみている。
 巨大ITを巡っては、寡占の弊害が問題視され、政府の規制強化が世界的に広がっている。公取委は調査機能を強化するため、民間の弁護士も大量に採用している。
(読売新聞オンライン 10月23日)

20年ぐらい前だが、米国の政府機関がハッキング対策を強化するためにハッカーを雇うようになったと聞いたことがある。敵側の人材を取り込むとは、ずいぶん大胆な人事に踏み切るものだと思ったが、この政府機関は孫子の兵法「敵を知り己を知れば百戦危うからず」を実行したのだ。
公正取引委員会が巨大IT企業から人材を獲得するのも、監視する側が監視される側の知見を取り込もうという戦法である。公取に就職した人は任期を終えて退職するときに、たぶん破格の報酬でスカウト合戦が展開されるかもしれない。巨大IT企業に比べて公取の給与は大幅ダウンの水準だろうが、箔をつけるために応募者はかなり多くなるのではないだろうか。
当然、強力な情報漏えい対策を講じたうえに、退職時にも万全の対策を取るのだろうが、本人の頭脳の中までは規制できない。しかし本人の前職企業にとって「敵を知り己を知れば百戦危うからず」を実行するには、社員を公取に送り込むことが有効な手段になるが、公取の監視水準がそこまで高度なのかどうか――。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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