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2割の大幅賃上げ、狙いは人脈豊富なシニア生かす

2023年の春季労使交渉では大手企業を中心に高水準の賃上げが相次いだ。水産業の極洋は4月から社員の平均年収を670万円から800万円へと2割引き上げた。人事制度を刷新して役職定年を廃止するなど、55歳以上の待遇改善に重点を置いた。年功序列の要素が強い制度から、個人の業務成果に応じて昇給や昇格が決まる役割等級制度も導入した。井上誠社長に狙いを聞いた。
――人事制度を刷新しました。
「従来の制度は改良はしているものの、私が入社した1980年から基本的に変わっていない。55歳で役職定年となり、一部を除き給与を3~4割減額していた。65歳になると、同じ仕事をしていても年収400万円ほどに下がる。やる気をなくし、離職してしまうなど弊害があった。この世代が人脈もノウハウも一番持っており、大事な人材だ。今後の事業拡大にもノウハウや人脈を若い世代に引き継いでいくことが必要だ。2000年ごろから新制度の検討を始めた」
「新制度では55歳での一律の給与減額をやめ、能力次第で65歳まで役職に就くことができる。定年も60歳から65歳に延長し、再雇用で70歳まで働ける。安心して極洋にいられると、40代後半のモチベーションが高まる効果もあった」
(日本経済新聞 5月18日)

極洋の井上誠社長が「安心して極洋にいられると、40代後半のモチベーションが高まる効果もあった」と述べているのは、心理的安全性が確保されたことを示している。
40代後半になれば定年以降のキャリアが視野に入ってくる。キャリアアップではなく、老後の生活設計がリアルな課題として迫ってくるのだ。55歳を過ぎた先輩社員の行く末は「明日は我が身」である。仕事内容が変わらず年収だけが半減させられれば、暗澹たる前途を覚悟しなければならない。その点、極洋の新人事制度では60歳以降も精力的に働けるので、40代後半を迎えても、もうひと花もふた花も咲かせようという意欲が湧いてくる。
中高年社員の戦力化策としてクローズアップされているリスキリングは、こうした人事制度とセットで運用してはじめて成果を出せる。当然、リスクキングに取り組む企業はどこも人事制度も見直しているのだろうが、心理的安全性が担保されないと社員は浮足立ってしまう。
一方、60歳を過ぎた社員には、たとえ高位の役職に就いていても、世代交代に直面している現実を踏まえ、次世代の社員に「椅子を明け渡す」「道を譲る」という切り替えが求められる。主役意識への執着は老害にほかならない。
しかし老害は年下の社員には指摘しにくい。チェックリストを用意して、定期的に同期社員と点検し合うのはどうだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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