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民間人材、市長から「内定」

全国の自治体が民間人材の獲得にしのぎを削っている。デジタルトランスフォーメーション(DX)などの新しい分野で即戦力が必要になっているためだ。硬直的な報酬体系が壁となり、過熱する転職市場で苦戦を強いられる自治体も多い。組織内の育成だけでは間に合わない専門人材を得る工夫と熱意は、地域の魅力向上に直結する。
「年収約1千万円。ふるさと納税流出を止める」。三重県最大の工業都市、四日市市が破格の待遇で人材募集をかけた。ふるさと納税の流出超過額が毎年増え、2021年度には約8億円に拡大。歯止めをかけるには「公務員の視点では限界」(人事課)と、外部人材に活路を求めた。1月下旬に締切、1人枠に全国から147人が応募。担当者は「期待した人が採用できそう」と話す。
新卒主体だった自治体の採用方針は変化しはじめている。業務効率化のためのDX推進や移住促進プロモーションなど、求める専門性は様々だが、多様な経験を持つ人材が活性化するとの認識は自治体で広がる。
(日本経済新聞 2月23日)

 自治体が民間出身者を積極的に採用するのは「競争原理にさらされて働いている分、公務員よりも会社員のほうが仕事はデキる」という“民間幻想”にとらわれているフシがないでもない。
公務員の仕事は制度の制約の中で、予算消化型モデルによって遂行される。その事業が経済波及効果を派生させることはあっても、事業そのものは収益を創出しない。まれにゼロイチもあるが、事業の基本は前例踏襲である。
人事評価も公務員には大幅な昇給も昇進昇格もないが、よほどの不祥事を起こさなければ降格も解雇もない。リストラもない。雇用が安定していることは確かだが、公務員の雇用が不安定では行政サービスが浮足立ってしまい、住民にも不利益だろう。
一方、住民からは批判や不満をぶつけられることはあっても、仕事が評価されることはあまりない。さらに事業によっては議会や関係団体などとの利害調整で板挟みになる。そこで繰り広げられるパワーゲームはエビデンスよりも思惑が優先され、組織の価値向上という民間企業の論理は通用しない。
要は民間の仕事と自治体の仕事はモノサシが違う。民間とは桁違いに多いステークホルダーをさばく手腕が公務員には求められ、民間の経験が活きるとは限らない。自治体が多様な背景の人材を求めることはよいが、資質の見極めが大切だ。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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