Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

労働移動 先進国の半分 生産性の足かせ、22年労働白書

厚生労働省は6日、転職や再就職などをテーマとした2022年の労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。日本の労働移動の活発さは経済協力開発機構(OECD)平均の半分にとどまっていると分析した。生産性向上や賃金上昇に向け、働く会社や仕事内容を柔軟に変えることができる環境が大事だと訴えた。
 労働移動の現状は転職者数などを用いて分析した。新型コロナウイルス禍となった21年の転職者数は290万人と19年に比べ63万人(17.8%)減少した。常用労働者数に対する転職者の割合を示す「転職入職率」はコロナ禍前が10%前後だったが21年は8.7%まで低下した。
国際的にみても、日本の労働移動は鈍い。新たに失業した人と再就職した人の合計が生産年齢人口に占める割合は日本が01年から19年の平均で0.7%と、OECD平均1.5%の半分程度だ。「失業プールへの流入出率」と呼ばれるこの指標は、労働移動の活発さを推し量る目安のひとつで、日本は低い水準が続いている。
(日本経済新聞 9月7日)

経済政策としては成長業種や人手不足業種への労働力移動を進めたいが、当の労働者は政策に追従してキャリアプランを立てるわけにはいかない。
介護サービス会社経営者は「われわれの業界は雇用情勢が悪化すると人材が流入してくるが、雇用情勢が上向くと人材が流出していく」と話す。しかしコロナ離職者は流入してこないという。職探しを急いでいても、これまでのキャリアや適性を考えれば、介護職に就いてもミスマッチに終わることが見えているから、転職先の候補から外しているのだ。
若年層ならキャリアアップとして転職に前向きになっているが、キャリアップを考えるのは一部である。それ以外の層を掘り起こすためなのか、人材紹介会社のテレビコマーシャルは、転職によって人生が開けることを巧みに演出し、転職を促している。
これはビジネスだから仕方がないが、かつてのカード会社のTVCMを想起させる。ハワイ・ワイキキの映像を繰り返し流して、カードを使って海外旅行に行こうとカード使用をあおっていた。その後、カード破産が社会問題になった。
転職もキャリアプランが不明瞭なままブームにあおられるのは危険だ。労働経済白書による問題提起を受けて、転職しやすい環境が整備されることは望ましいが、転職を促す政策は筋違いである。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。