2022/06/03
高齢者の労働参加に急ブレーキがかかっている。就業に関する政府統計の分析からは、新型コロナウイルス禍で高齢層の就労意欲が低下し、一部が就業をやめている実態が浮かぶ。背景にはコロナ感染への不安や、希望する仕事が減ったことなどがありそうだ。意欲ある高齢者に働き続けてもらい、労働力人口を下支えするには就労環境の改善が急がれる。 総務省の労働力調査によると、女性や高齢者の働き手が増え、労働力人口はこの10年で5%近く増えた。足元では横ばい傾向になりつつある。2020年春のコロナ感染拡大初期は、女性を中心に職を離れる人が増えた。21年春以降は男性の離職が増えている。 男性の中でも高齢層の非労働力化が目立つ。非労働力化とは職を離れ、その後に職探しをしないことを指す。21年の非労働力人口は65歳以上の男性が1021人。コロナ禍前の19年の1009人から増えた。 この間、日本全体の非労働力人口は減っているが、労働政策研究・研修機構(JILPT)の戸田卓宏主任研究員の分析によると、コロナ禍では主に65~74歳男性が非労働力人口を増やす要因になっている。厚生労働省の担当者も「55歳以上の男性で就業意欲の喪失が懸念される」と話す。(日本経済新聞 5月27日)
コロナ禍でシニア層の就業意欲が減退した背景には、感染への懸念だけでなく、ライフスタイルの見直しも大きく影響しているだろう。さまざまな調査をみると「何歳まで働いたか?」という設問に対して「70歳まで」が多いが、この年齢層で働かなくても経済的に安定している人は、働かない人生を選択するのも自然な流れだ。 ところが「多忙=善、ヒマ=悪」という価値基準が身体感覚に刷り込まれていると、体力が尽きるまで働くべきだと「べき論」に縛られてしまう人も多いようだ。この風潮を主導しているのが年金政策である。公的年金の受給開始年齢を75歳まで延期すれば84%増という改正は、75歳までの就業をなかば迫っているような政策だ。 政策意図が見え見えなら、その意図に振り回されてはかなわないと距離を置き、今一度ライフスタイルを見直すのは必然だろう。定年退職以降も働く理由は、生活設計、生きがい、職場の事情、健康増進などさまざまだが、どれも私的な事情である。 労働力人口確保という国策を見据えた滅私奉公型就業は、75歳での年金増でどこまで誘導できるだろうか。
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