2024/10/01
企業が退職者に同業他社への転職を一定期間禁じる「競業避止契約」について、司法判断に変化が出ている。1年以上の制限が認められにくくなり制限に合理的な根拠があるかが厳しく問われる傾向も強まった。秘密情報の流出を防ぐために転職制限する企業は増えているが、従業員への丁寧な説明などが求められる。
競業避止契約は、公序良俗違反に当たるか――。転職した元従業員と元の職場である企業などが争うケースが目立つと、明治学院大学の植田達准教授は指摘する。同准教授によると、この約2年、東京や札幌で4件の判決が相次いだ。
そのうちの一つが、情報技術者の派遣会社が元従業員のシステムエンジニアに課していた転職制限を「無効」と判断した2022年の東京地裁裁判だ。
派遣会社はエンジニアの退職時に協業避止契約を締結。1年間は派遣先、その関連企業、競合他社への就職を禁じたほか、自社と競合する起業もさせないように縛った。違反すれば給与3カ月分に加え、派遣会社が被った「一切の損害」や調査費用、訴訟に関連する様々な費用まで弁償するとした。エンジニアは退職後、以前の派遣先の関連企業で個人事業主として働き、派遣会社が賠償を求めて争いになっていた。
(日本経済新聞 9月23日)
同業他社への転職を一定期間禁止する「競業避止契約」は人材流動化の阻害要因である。個人情報保護の対象である名刺情報の流出防止策などを強化したうえで、緩和措置に向かうだろうが、現在の基準はケース・バイ・ケースの判断で、やや曖昧だ。
厚生労働省は「基本的な方向性」を次のように示している。
(1) 競業の制限が合理的範囲を超えて職業選択の自由を不当に拘束する場合には、公序良俗
に反して無効となる。合理的範囲内か否かは、制限する期間、場所的な範囲及び職種の範囲、代償の有無等について、企業の利益と退職者の不利益等から判断される。
(2)競業活動をある期間制限したとしても、直ちに職業選択の自由を不当に拘束するものではない。同業他社へ就職した場合に退職金の額を半額とする退職金規程も、退職金が功労報償的な性格を合わせ持っていることからすれば、合理性がないとはいえないとした事例がある。
そのうえで「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月最終改定)で「使用者は、労働者の自らの事業場における業務の内容や副業・兼業の内容等に鑑み、その正当な利益が侵害されない場合には、同一の業種・職種であっても、副業・兼業を認めるべき場合も考えられる」と述べている。明言はしていない。
企業と労働省の双方の利益と不利益を定義しないと、この問題はスッキリと片付かない。
Talk Geniusとは-
ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。