2021/09/01
行政デジタル化の歩みが全般的に遅い背景には、人材の流動性が低いことがある。行政手続きのデジタル化を進めようとすると、その手続きの「オーナー」である所管省庁がブロックすることが多い。
同じ役所で長年キャリアを重ねた生え抜き幹部に、価値観のリセットを求めるのは難しい。例えば政府が規制改革で会社設立手続きのデジタル化を進めようとしていた時、法務省は公証役場で反社会的勢力でないかのチェックを受けさせる仕組みをつくり、デジタル化は骨抜きになった。
法務省の生え抜きの人たちが考える正義を否定はしないが、一つの役所の価値観にとどまる人だけでは変化は起きない。デジタル庁設立を外の世界の価値観に触れたデジタル人材が霞が関で増えるきっかけにしなければならない。
人材の流動化を進めるには、女性の雇用拡大も重要だ。夫婦がともに稼いでこそ互いに異分野への転職などリスクを取った挑戦ができる。デジタル庁は日本の雇用の構造的問題を見直すきっかけにもなってほしい。(日本経済新聞 8月23日)
デジタル庁に必要な人材像は、経団連が示した「Society5.0」の人材像と合致するのではないか。どんな要件を備えた人材が求められているのか。
経団連が示したのは「果敢に新しいことに挑戦し、社会の仕組みを一から創り直して、設計できる」「多様な背景と価値観を持つ人々からなるコミュニティーやビジネス上のチームにおいて、リーダーシップを発揮できる」など。
こうした人材の素養は贅沢に説明されている。
「異なる文化に対する深い理解と敬意、新しい価値を想像し創造する力など高いリベラルアーツの素養と、コミュニケーション能力、メンバーから尊敬され得る深い専門性と人間性を兼ね備えることが必須」
要はどんな会社にも行政機関にも欲しい人材だが、これだけ理想的な人材は滅多にいない。いても早々のポストと報酬を与えられていて、あえてデジタル庁に移籍し、制約の多い公務員として働く動機もないだろう。
デジタル庁の幹部は関連省庁からの出向で賄われるのだろうが、出向職員とプロパー職員とでは判断基準や行動様式が異なる。融合すれば良い仕事を期待できる。
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