2021/07/02
さいたま市のメッキ会社、日本電鍍工業の伊藤麻美社長は「100年、200年、300年と続く会社を目指し、そこからいま何をすべきかを常に考えている」と語る。将来あるべき姿から現在を振り返る思考法「バックキャスティング」といえる。
年商7億円規模、従業員73人の中小企業だが、地元経済界トップで伊藤社長を知らない人はまずいない。社長に就いた2000年、会社は10億円の負債を抱え、業績は赤字のどん底。創業者の一人娘だが、大学を出てラジオのパーソナリティーを務めたり宝石鑑定士の勉強のため米国留学したりと「経営は全くの素人だった」という伊藤社長が見事、再建を果たしたドラマがあるからだ。
(中略)
再建を支えたベテラン社員の定年に合わせ、5~6年前に一斉に引退を促した。何度促しても若手に技能を伝承しない「ネガティブな人材」が対象。同時に、社長就任時に部も課もないのに10人ほどいた部長と課長を、それぞれ1人にした。
部長には30代を起用し、薬液で汚れ危険なメッキ場の更新を一任した。「若手に技能を教えないベテランと汚いメッキ場のままでは100年どころか20~30年しか持たないと思った」。部長は今年始めた新事業の設備導入を20代の社員に任せ、大胆な権限移譲が現場でも進む。
(日本経済新聞 6月24日)
中小企業の事業承継で後継者が直面する難題に、経営幹部とベテラン社員の処遇がある。
経営幹部とベテラン社員は先代の“子分”であり、後継者にも同様に従っていこうという意識を持ちつづけるとは限らない。力んだ後継者がいきなり上下関係を楯に接すると、面従腹背に走られかねない。
後継経営者として実績を築いて、上下関係が成り立つのである。だが、上がつかえている限り、若手社員にはいっこうに活躍のチャンスが与えられない。企業の継続を考えれば世代交代が必須だが、やり方を間違えると社内が分断してしまう。
この通弊に備えて、業務用食品の卸売会社のオーナー社長は後継者の息子に対して「自前の子分を何人かつくって、そのメンバーが経営幹部として務まる可能性が見えたら、社長を交代する」と申し渡した。次世代の体制が整えば、旧世代はポストに固執せずにサポート役に廻るはずだ。
この記事によると、日本電鍍工業の場合、定年というタイミングで世代交代を実施した。
バックキャスティングによって経営課題を社内で共有すれば、どの社員も自分の立ち位置を理解できて、感情の揺れはともかく、世代交代には抵抗できない。
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