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電通社長、社訓の「鬼十則」を否定か?

広告業界のガリバー、電通で新入社員の女性が過労自殺した問題は7日、東京労働局などによる大規模な強制捜査に発展した。刑事事件として立件される可能性が高まり、石井直社長は社内の説明で長時間労働の改善を呼び掛けた。だが、社員らには戸惑いや懐疑的な受け止めも広がっている。
(中略)
石井社長は長時間労働の背景として、環境の変化や仕事量の増大に加え、「いかなる仕事も引き受ける気質」を挙げた。その上で、「業務量自体の削減と分散化」「業務プロセスの見直し」「時間の使い方の改善」などを社員に求めた。

(中略)

50歳代の男性社員は「『電通人』の行動の基本原則は鬼十則。
それに沿った行動を求められてきたのに、社長の説明は改革というより自己否定とも取れる内容。違和感を覚える」と首をひねる。
「鬼十則」とは、4代目社長で「広告の鬼」「電通中興の祖」と呼ばれた故吉田秀雄氏が1951年に定めた10カ条で、社員手帳に今も記されている。

「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」の一文は、25年前に男性社員が過労自殺した際、「長時間残業の助長」だと問題視された。
(毎日新聞 11月8日)

ワタミグループが社員向けの冊子(理念集)にある「24時間365日死ぬまで働け」とい
う一文を撤回したが、いずれ電通も、同様に「鬼十則」から反社会的な表現の削除を強いられるだろう。
鬼十則の価値観が浸透した社員にとっては面食らうだろうが、ここまで事態が大きくなれば思考を切り替えざるをまい。

ただ、どんなに抜本的な改善策を講じても、それが趣旨どおりに運用されなければ元の木阿弥だ。
厚労省による経営幹部の事情聴取を経て立件されれば、電通は、経営幹部の入れ替えや責任者の処罰、就業規則の是正などに着手するだろうが、社員の多くが退社時間を早めて在宅勤務に切り替えた結果、総労働時間は変わらないという事態に着地するのではないか。

労働基準監督署が在宅勤務時間まで把握するには、パソコンの起動時間を調査する以外にないが、情報産業に対しては、そこまで踏み込まないと長時間労働は根絶できない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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