Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

会社と社員が職務や労働時間を契約する時代へ

世界のなかで日本の正社員は特異な存在だ。雇用契約は一般に欧米もアジアも具体的に職務を決めて結ぶが、日本はそうではない。
時間外労働や休日労働は世界の大半の国が厳しく規制している。これに対し、日本は労使協定(三六協定)によって事実上、労働時間を際限なく延ばせる。

水町一郎東大教授の説明を借りれば日本の特徴は、「解雇に関する厳格な規制」と、「これとは対照的な「(解雇以外の)労働条件に関する柔軟な規制」にある。労使協調のもと、日本企業は労働時間や賃金を柔軟に調節することで景気変動に対応してきた。
高度成長期に定着したこの仕組みがいまも根を張るのは、経営者にとって使い勝手が良いためだ。

改革の方向ははっきりしている。会社と個々の社員とが、職務や労働時間などを明確にして雇用契約を結ぶようにしていることだ。
(日本経済新聞 6月12日)

職務や労働時間などを明確にした雇用契約は業務委託に近い。長時間労働の是正にはなるだろうが、社員にとっては不安ではないのか。組織への帰属願望と滅私奉公の精神がセットになった日本の企業風土にあっては、職務が期待値を下回り続けても、解雇はされないという安心感が重要な要素である。
しかも、昨今はベンチャー企業でも、成果主義人事を抜本的に見直す動きに入っている。理念や行動基準に合致した仕事をしたかどうかを、評価項目で大きなウエイトを置く方針に切り替える例が増えているのだ。
成果が期待値を下回っていても、理念や行動基準に合致していれば一定の評価を得られる考課制度に移行している。
狙いは帰属意識を高めることである。一方で職務内容を特定した雇用契約は、マルチタスクによって人材を育成するという手段が実行しにくい。しばらくは一部の専門職への適用にとどまるのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。