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中小賃上げへ、アメとムチ 価格転嫁「Gメン」1割増

政府が賃上げの裾野拡大に力を入れている。中小企業庁は4月から取引先への価格転嫁が進んでいるかを調べる「Gメン」を1割増やし330人とした。適正な取引を実施している企業には賃上げ税制を通じて法人税を優遇する方策も用意し、硬軟織り交ぜて賃上げ定着を狙う。
「下請けGメン」は2017年度に80人で発足した。22年度には248人に増員しており、今年度はさらに増やした。
年間で約1万社を対象に価格転嫁の状況を調査する。24年度は新たに「手形」などの支払い条件や、自動車部品の生産に使う金型を無償で下請けに保管させる「型取引」といった個別の商習慣にも目を光らせる。
金型産業は中小企業が多く、取引先から過剰な負担を強いられているケースがある。個別の商習慣の詳しい調査によって、いびつな取引を是正し、小規模な企業でも賃上げができる環境を整える。
取引関係で立場が弱い中小企業に集中聞き取りも実施する。独占禁止法が規制する優越的地位の乱用や、下請法違反にあたる「買いたたき」行為などもすぐに把握できるようにする。
(日本経済新聞 5月3日)

Gメンを配置するほど価格転嫁は深刻な問題である。中小企業庁は、下請中小企業が適切な価格転嫁を実現できるよう、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と 設定しているが、さらに2023年7月より、全国のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を設置し、 価格交渉に関する基礎的な知識や、原価計算手法の習得支援を行っている。
中小企業庁によると、価格転嫁できた企業の多くが「原価を示した価格交渉」が有効と回答したという。価格引き上げを求める根拠を示さないと、コストダウンを追求する発注元は検討の俎上に載せられないが、根拠を示せば、いまや検討のうえ善処せざるを得ない流れだ。仕入れ部門はコストダウン目標を課せられているだろうが、従来とは方針を変更して、目標値の見直しも必要だろう。
価格転嫁サポート窓口は、原価管理の目的と算出に係る考え方、製品原価の算出に必要な情報の把握手法などを助言。さらに製品原価算出に係る実践的な提案や、当該企業の実態を踏 まえた具体的な製品毎の原価の算出方法などを提案している。
中小企業庁は価格交渉に関して発注者の採るべき行動も公表している。①本社(経営トップ)の関与②発注者側からの定期的な協議の実施③説明・資料を求める場合は公表資料とすること④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと⑤要請があれば協議のテーブルにつくこと――などである。
しかし最低賃金と同じように、国が製品・サービス毎の最低単価を示さないと、おそらく価格転嫁問題はなかなか解消しない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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