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「中小企業の賃上げ疲れが顕著」価格転嫁進まず継続困難 

2025年春闘は大手企業で高水準の賃上げ回答が相次いでいるが、中小企業への波及が景気の押し上げのカギとなる。ただ、大手の下請けとなる中小では価格転嫁が進まず、労働組合がない企業も多く、賃上げの原資を作りにくい状況だ。中小の経営者からは賃上げの継続が難しく、大手との格差がさらに拡大することを懸念する声も漏れる。
さいたま市内に本社を構える自動車修理関連の中小では今春に一律2万円のベースアップを実施することを決めた。賃上げ率は中小の労組が求める6%以上の高水準だ。この会社では3年前に1万円、2年前に2万円のベアを実施し、昨年は年間の休日数を増やした。
経営者は「これまで業務を効率化し、ベアの原資を作ってきたが、そろそろ限界が見えてきた」と話す。「大手が初任給30万円を打ち出し、中小との格差の広がりを実感している。中小の魅力を伝えるのが難しくなっている」と今後の採用への不安を口にする。
町工場が集積する東京都大田区で、金属加工業を営む経営者は「現状では賃上げは難しい」と苦しい状況を語る。この会社は大手の試作品などを手がけるが、円安の影響で高騰する原材料費や電気代の増加分を販売価格に転嫁できないという。
(産経新聞 3月12日)

日本商工会議所の小林健会頭は3月12日、今回の春闘について「物価と賃金の好循環に向け、地方を含む中小企業・小規模事業者へ賃上げの動きが広がることを強く期待する」と述べ、さらに価格転嫁に言及した。
「賃上げ原資の確保には、企業自身による付加価値拡大とともに、労務費を含む価格転嫁をサプライチェーン全体で商習慣化していくことが不可欠である」
 しかし価格転嫁をめぐる現状はどうだろうか。この発言に先立つ3月7日、芳野友子会長は小林会頭との懇談で次のように指摘した。
「企業規模間の格差是正に向けた適切な価格転嫁の徹底が不可欠であるが、コスト全般の転嫁率はいまだ5割程度、一昨年に公表された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の認知度もまだ半分という状況である」
 中小企業の賃上げが思うように実施できなければ、採用難だけでなく社員が流出して、事業継続に暗雲が漂いかねない。げんに人手不足倒産は増加傾向にある。この問題がさらに拡大すれば、発注側の大手企業にとってサプライチェーンが衰弱しかねないが、どう考えているのだろうか。
その一方で、大手企業の初任給は30万円時代に足音高く向かっている。中小企業との賃金格差はどんどん開いてゆく。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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