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従業員「退職」で倒産、2024年は87件  過去最多を大幅更新

人手不足が深刻となるなかで、従業員を自社につなぎとめることができずに経営破たんするケースが急増している。2024年に判明した人手不足倒産342件のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産は87件判明した。前年(67件)から20件・約3割増加したほか、多くの産業で人手不足感がピークに達した2019年(71件)を大幅に上回り、集計可能な2013年以降で最多を更新した。   
2024年の「従業員退職型」倒産を業種別にみると、最も多いのが「サービス業」(31件)で全体の35.6%を占めた。サービス業が全産業で最多となるのは、2019年以来5年ぶりとなった。特に多いのがソフトウェア開発などIT産業のほか、人材派遣会社、美容室、老人福祉施設など、いずれも人材の定着率が他産業に比べて低位になりやすく、人手不足感を抱える産業が中心となった。  
次いで多いのが「建設業」(18件)で、設計者や施工監理者など、業務遂行に不可欠な資格を持つ従業員の退職により、事業運営が困難になった企業などが目立った。また、「製造業」や「運輸・通信業」では初めて年間10件を超え、工場作業員やドライバーの退職で事業がままならなくなったケースが相次いだ。
(帝国データバンク 3月9日)

人手不足によりサービス利用者数を制限せざるをえず、売上不振に陥りやすい業種に介護事業がある。
東京商工リサーチの調査によると、2024年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は過去最多の172件(前年比40.9%増)に達した。ヘルパー不足や、基本報酬のマイナス改定などが影響した訪問介護が過去最多の81件。多様化したニーズに対応できなかったデイサービスも過去2番目の56件、有料老人ホームも過去最多の18件と、いずれも増加した。
同社は「原因別では、最多が販売不振(売上不振)の125件(構成比72.6%)で、破産が162件(同94.1%)と利用者減少から破産を選択せざるを得ない苦境がうかがえる」と分析する。
介護報酬の改定は2年後なので、それまでは現行の介護報酬で経営を強いられ、今春の賃上げも昨年同様に産業界全体の平均値を下回るだろう。ますます人材の確保は困難になり、人手不足倒産の多発は避けられまい。あるいは倒産に至らなくとも、休業や廃業が増えてゆく。
介護業界に限らず人手の確保が困難な業種では、就業者の高齢化が進んでいる。むこう5~10年後には引退する就業者が増加して就業人口が激減すれば、AIに代行させる手段も進むだろうが、サービス提供量は大きく減少するだろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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