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奨学金「企業肩代わり」拡大 1年で2倍、2700社超

福利厚生の一環として、社員が大学時代に借りた奨学金を代わりに返済する企業が増えている。2024年12月末時点で2781社となり、1年間で約2倍に拡大した。人材確保の呼び水になるほか、税制優遇を受けられるため、関心が高まっている。
奨学金を貸与する日本学生支援機構は21年4月、企業などを対象に「代理返還」の制度を導入した。社員が機構に返済する分を企業が直接、送金できるようになった。
高齢者向け配食サービスのシルバーライフは全正社員の約1割にあたる27人の奨学金を返済している(24年11月時点)。7年かけて全額を返済する方針で対象は新卒、中途採用者を問わない。
社員が7年未満で退社しても返金は求めないという。担当者は「入社への判断材料のひとつになる。7年という期間を設定することで長く働いてもらえ、会社の力になる」と説明する。
給与に金額を上乗せし奨学金返済を支援する企業は以前からあった。ただ、給与と区別しにくく支援分にも所得税がかかる課題があった。代理返還制度を使うと非課税となりうる。社会保険料の算定対象からも外れる。
(日本経済新聞 2月3日)

日本学生支援機構(JASSO)は企業による奨学金の肩代わりを呼びかけている。奨学金返還支援(代理返還)制度のメリットに①「若手人材」へアプローチ② 「人材の定着」で離職率低減③経費の一部としての「課税優遇」④ 企業等の「イメージ向上」――の4つを示している。
行政も肩代わりに動いている。東京都は東京しごと財団を通じて、中小企業を対象に奨学金返済肩代わりを支援している。この事業の利用を希望する中小企業と大学生が、それぞれ財団に登録して財団が大学生を選考のうえ対象者を決定する。本人が就職先に1年間継続して勤務すれば本人の申請を経て、登録企業が登録時に選択した負担額を支援金として支出し、東京都も同額を負担する。東京は最大3年間にわたり助成する。
登録者のうち支給対象になるのは1年度あたり1社につき上限3名。たとえば企業が登録者1人に対して年間12万円(3年間で36万円)を肩代わりする場合、財団は12万円を助成する。
一方、奨学金の利用で気になるデータがある。JASSOの調査によると、奨学金申請時の申込手続きを「奨学生本人」が行った比率は、無延滞者では59.0%であるのに対し、 延滞者は47.9%と低い。「奨学生本人」と「本人と親等」を合せてみても、無延滞者では84.3%であるのに対し、 延滞者では70.2%しか申請時の申込手続きに奨学生本人が関わっていない。延滞者は無延滞者に比べて、親等が申請時の申込手続きを行った比率が高い。
本人が申込手続きに関わらないと、借金をしたという自覚が乏しくなるのだろう。さらに驚くのは申込手続きの前に返済義務を知らない者がいることだ。
返還義務を知った時期は、無延滞者は「申込手続きを行う前」が89.1%であるのに対し、延滞者では56.2% にとどまったまた、延滞者では、貸与終了後に返還義務 を知った者の合計は14.0%で、そのうち約半数の6.8%は「延滞督促を受けてから」知ったと回答している。
 本来、返済義務は申込手続きの前に100%の者が知っていなければならないはずだ。奨学金の利用案内に給付型奨学金と貸与型奨学金の違いを本人に説明する仕組みが必要である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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