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中小企業、業績改善なき賃上げ6割 人材つなぎとめ重視

中小企業で業績の改善が伴わないのに人手を確保するための「防衛的な賃上げ」が目立っている。日本商工会議所の調査で6割に上り、収益力の向上による「前向きな賃上げ」を上回る。人材つなぎとめのための苦肉の措置で、賃上げの定着には課題が多い。
中小企業の支援を担う日商は20日、東北6県の商工会議所連合会との会合を仙台市内で開いた。仙台商工会議所の藤崎三郎助会頭は、原材料高や人手不足をあげて「次々と押し寄せる困難な課題に的確に対応しなければならない」と苦境を訴えた。
日商が5日に公表した賃上げを巡る4〜5月の調査で、2024年度に賃上げを実施したか実施予定の中小企業は74.3%だった。その賃上げ企業のうち「防衛的」との回答は59.1%を占め、「前向き」は40.9%にとどまった。従業員20人以下の企業に絞ると「防衛的」が64.1%に達した。
日商には「人手不足のなかで賃上げに取り組んでいる」(中国地方の小売業)、「物価高が続くなかで利益を削っており、(今後も)賃上げに応えられるかは不透明だ」(東北地方の製造業)といった声が届いた。
(日本経済新聞 6月21日)

 地方の中小企業は賃上げが進んでいない印象だ。伊勢崎商工会議所(回答・367社から回答)が会員企業を調査したところ、2024年中の賃上げについて「引き上げる」予定の企業は35.3%。「引き上げしない」企業(64.7%)の半分程度で、引き上げ幅で最も多いのが「2%未満」(55.7%)だった。
 引き上げをしない理由は「家族経営だから」が38.7で最多。次に「今後の業績見通しが不透明」(22.7%)で、「賃上げに見合う価格転嫁ができていない」(19.6%)は3番目に多い理由だった。
 やはり価格転嫁は難題である。岡山県商工会議所連合会 (回答・441社)の調査では、卸売業で「上昇分を全て転嫁できている」との回答が21.7%だった一方、製造業・建設業・小売業・サービス業の4業種は10%未満に過ぎなかった。
価格転嫁の推進は「骨太方針2024」にも盛り込まれたが、日本商工会議所の小林健会頭は「パートナーシップ構築宣言などによる取引適正化、価格転嫁の取組みを進めているが、これが商習慣化されるまでの道のりはまだ長い」と指摘した。賃上げ同様に政治主導で本腰を入れないと片付かない問題である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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