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「給料払い続けられない」経営者が悲鳴 最低賃金、大幅上げの徳島

徳島県では2024年11月、最低賃金が896円から980円に一気に引き上げられた。
上げ幅の84円は全国で最大。24年夏に引き上げが決まった際、後藤田正純知事は「他県との(人材獲得)競争や若者の流出を防ぐ観点からも評価できる」と強調したが、中小・零細企業の経営者からは「これだけの給料を払い続けられるほど利益はない。今のままでは人は雇えない」と悲鳴が上がる。
 県北西部、清流・吉野川に面するつるぎ町で200年以上の歴史を持つ「半田そうめん」。生産者らでつくる協同組合は、主力商品を25年3月から1~2割値上げすると決めた。「原材料や包装紙、そうめんを乾燥させるボイラーを炊く費用などあらゆるコストが上がっている。(対応に)走り回っているうちに引き上げの期限が来てしまった」と、代表理事の北室淳子さんは肩を落とす。
 省力化設備の導入など生産性向上を通じて中小企業の賃上げを後押しする国の制度もあるが、北室さんは「半田そうめんの製造に関わる機械は特殊なものが多く、補助を受けられなかった」と指摘。「賃上げをしたくないとかではない。収益力の強化へ助けを求めており、助成金や補助金はもっと柔軟でシンプルにしてほしい」と訴える。
(時事通信 1月5日)

 多くの中小企業で、賃上げ余力は限界に達しているようだ。2024年12月に日本商工会議所が調査したところ(回答1932社)、25年度に賃上げを予定している企業は計48.5%、未定は26.1%、賃上げを予定していない企業は25.3%だった。
 しかも賃上げを予定している企業に、必ずしも賃上げ余力があるわけではない。業績改善をともなわない防衛的な賃上げがじつに70%弱を占めている。人材確保のために賃上げに踏み切らざるを得ないのだ。
 日本商工会議所の小林健会頭も25年の年頭所感で「賃上げを行った中小企業の約6割が収益改善をともなわないなかで、人手確保のための防衛的賃上げを迫られたことも事実」
と指摘した。
 そのうえで小林氏は「賃上げのモメンタムをいかに持続可能な形に転換するかが、停滞から成長のステージに向けた今年の大きな課題となる」と語っている。中小企業の多くが直面する業績改善の課題は価格転嫁と人手確保だが、皮肉にも賃上げが阻害要因のひとつになっている。
 東京商工リサーチの調査によると24年の「人件費高騰」倒産は1~11月の累計が93件(前年同期54件)に達し、年間最多を記録した23年の59件を大幅に上回った。賃上げを実施した企業にも、物価高に伴う収益悪化や業績鈍化から「賃上げ疲れ」が漂いはじめているという。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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