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2024年の「早期・希望退職」募集1万人が目前 上場企業53社

2024年1月から11月15日までに「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は53社(前年同期36社)で、前年同期の約1.5倍のペースで推移している。集計の対象人員は、9,219人(同2,915人)と3倍に増加し、すでに2023年の年間社数、人数を上回った。
 このペースで推移すると2021年以来、3年ぶりに1万人を超えることがほぼ確実になった。国内外で9,000人を募集する日産自動車、人数の上限を設定しない武田薬品工業、募集人数は未公表だが200億円の費用計上を発表した富士通、50歳以上の社員を対象に1,000人を募集する第一生命ホールディングスなど、年末を迎えて人数非公開の大型募集が相次いでいる。
 上場区分は東証プライムが37社(構成比69.8%)と圧倒的に多く、直近決算で黒字企業が32社(同60.3%)と6割を占めた。新たな特徴は、募集人数を公表しない募集や、グローバル企業の国内外での大規模募集の実施がみられた。これまでの募集は、黒字企業が事業やエリアを絞り構造改革や事業全体の変革を目的にした募集が中心だったが、ここにきて様相が変わってきた。
 変化する世界経済への対応や新規分野への進出で既存分野の縮小、撤退による人員削減など、改革を急ぐ企業の動きを反映しており、今後も大型募集が続く可能性が高まっている。
(東京商工リサーチ作成レポート 11月19日)

 希望退職者の増加は人手不足が深刻な介護業界や建設業界にとって人材確保のチャンスにも見えるが、外国人労働者の雇用で人手を補おうとしている業種への労働移動は、政府のシナリオ通りにはなかなか進まないようだ。
 厚生労働省は2025年度予算の概算要求に、リスキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入、成長分野への労働移動の円滑化に1695億円を要求した。リスキリングには教育訓練休暇給付金の創設や相談支援事業の拡充を通じた経済社会の変化に対応した労働者個々人の学び(直し)の支援、労働移動には多様な業種における団体等検定制度の活用促進を通じたスキルの階層化、標準化を盛り込んだ。
 なぜ労働移動が進まないのだろうか。この実態を35年も前に予見した人がいる。さる11月に亡くなったドイツ文学者の西尾幹二氏である。
西尾氏は1989年に「労働鎖国のすすめ」を著して、外国人労働者の受け入れに警鐘を鳴らした。欧米諸国の外国人労働者受け入れを分析し、不人気職種への就労によって社会に階級が発生することを喝破した。日本は階級社会ではないとはいえ、職種の人気・不人気の格差は顕著に開いている。
とくに若者に人気の低い介護や建設は外国人労働者に頼らざる得ない状況で、これが不人気を助長している。いまさら外国人労働者の受け入れを縮小するなど後戻りはできないが、受け入れの拡大にともなって労働移動の壁は大きくなってゆく。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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