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「社員からフリーランスに契約切り替えを」突然会社に迫られ…強要なら違法

働き方の多様化が進む中、「会社員からフリーランスに契約を切り替えるよう会社に迫られた」とのトラブルが国の相談窓口に寄せられている。十分に理解しないまま、契約変更を受け入れているケースもあるという。会社側は労務管理の必要がなく、経費を削減できるメリットがあり、専門家は「違法な退職強要が一部で行われている恐れがある」と警鐘を鳴らす。
 政府は、会社などから雇用されず、店舗や従業員を持たないフリーランスは、2020年時点で約462万人と推計している。
 会社員の場合、雇用する会社が健康保険料や厚生年金保険料の半額を、労災保険料の全額を負担する必要がある。しかし、フリーランスは会社と業務委託契約を結んで働く個人
事業主という立場だ。会社は保険料などを負担する必要がなく、労働基準法の対象外なため、労働時間の規制もない。会社は一般的にコストを削減できるとされる。
 関西地方のベンチャー企業で営業を担当していた30歳代の女性は昨夏、会社から「このまま仕事を続けるなら、業務委託という形になる」と突然告げられた。
 昨春頃から会社の資金繰りが悪化し、社員の半数が同じ打診を受けていた。女性は仕事に愛着があり、フリーランスとして働くことを選んだ。(読売新聞オンライン 5月4日)

 社員にフリーランスへの移行を勧める口実のひとつに「副業に制約がなくなり、収入を増やせる環境を整備できる」。こんな誘導もあるという。どんな業種・職種でも、もっとも親和性の高い副業先は同業者だが、通常、同業者での副業は禁止されている。
 しかしフリーランスになれば会社の支配下から離れるため、副業先は制約されず、収入増への道が開ける――そんなシナリオを示されても、すんなりと応じてしまう社員はいるのだろうか。よほどの実務能力と人的ネットワークを持っていない限り、社員でありつづけたほうが現実的である。
 フリーランスを巡っては、さる4月28日に「フリーランス・事業者間取引適正化法」が成立した。
特定受託事業者(業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しない者)との業務委託(政令で定める期間以上のものに関し、①〜⑤の行為をしてはならないと規定された。①特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること②特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること③特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること。
 だが多くの場合、取り引きの適正化はフリーランスと取引先との力関係で左右されがちだ。第二東京弁護士会が関係省庁(内閣官房・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁)と連携して「フリーランス・トラブル110番」を運営しているが、相談すれば取り引きの打ち切りに至りかねない。よほど理不尽な事案でないと相談しにくいのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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