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テック大量解雇、見えぬツケ

「グーグルで8年半近く働いたあげく、人員削減の対象となった。ここでずっと働くつもりだったので、けさ届いたこの解雇通知は受け入れがたい」
ビジネス向けSNS(交流サイト)リンクトインにはこうした投稿があふれている。1月にメールで突然解雇を告げられた米グーグル社員からのだ。大規模な人員整理に踏み切ったのはグーグルの親会社の米アルファベットだけではない。IT(情報技術)業界全体でこの1年に約20万人が失職した。
 企業イメージや経営スタイルに逆らっても大量解雇の一気に断行すべき理由は、知的財産や顧客情報の保護、社内データの流出防止など安全対策上の問題があるからだろう。
 ただ雇用主は長期的にはひずみが生じることに気づいているだろうか。社員や組織の管理手法を研究している米ハーバード大学経営大学院のサンドラ・サッチャー教授は、解雇が社員に及ぼすことが研究で明らかになっていると話す。「大量解雇は組織内の信頼を壊すので最終的には割に合わない」。
(中略)
ある調査では、人員を1%減らしたところ、その1年後には自主退職が31%増えたケースがあった。(日本経済新聞 2月6日)

 リストラの受け止め方は米国企業の社員ビジネスライクに割り切れないようだ。リストラされるリスクを想定したうえで勤務しつづければ、腰が落ち着かず、常時転職先を探すか、起業の準備をはじめるか、いずれかである。
 長年勤務しつづけるのは雇用に対する信頼関係があるからだ。たとえ歯車のひとりにすぎないとわかっていても、雇用の不安がないから腰をすえて働けるのである。腰をすえられるかどうかは、モチベーションの高低以前の問題だ。
 この鉄則は洋の東西を問わないのだろう。日本では雇用の流動化を理由に希望退職を実施する企業が珍しくなくなった。多くの社員が路頭に迷うことに経営陣は痛みを自覚しているのか、それともビジネスライクに割り切っているのか。
残る社員は経営陣の言動から、その胸中を見透かして、いまの職場で働きつづけることの良し悪しを考えるようになっていく。そもそも社員をモノのように切り捨てる人事は、脱・日本型経営とは別の問題である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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