2019/11/16
メーカーから小売りまで様々な企業によるIT人材の奪い合いが、終身雇用や報酬制度まで変えつつある。
「会社は本気で変わろうとしている」。そんな思いを胸に川上雄也(33)は英NTTの関連会社でクラウド開発に打ち込む。NTTコミュニケーションズの技術者だったが、管理職になり現場を離れる将来に幻滅し、3月に退職しようとした。しかし最先端の現場にいながら厚待遇も権限も得られる人事制度ができると慰留された。今は給与も3割増しの1千万円超だ。高度技術者だと認められれば、年収は最高で3千万円になる。
新卒を大量採用して手厚く育てるNTTグループは、IT人材の供給源だ。NTT社長の澤田純(64)は「研究開発人材は35歳までに3割がGAFAなどに引き抜かれる」と打ち明ける。経済産業省によると米国ではIT人材の平均年収のピークは30代で1200万円超だが、日本では30代は520万円程度だ。
(日本経済新聞 11月5日)
日本全体での30代の平均年収は520万円だが、大手IT企業に限って言えば、30代前半で1000万円を超えるのは普通だ。ただし、それには残業手当が含まれる。残業なしで1200万円を超える外資系企業との賃金格差は大きい。特に、AIの技術者は需要の急拡大に供給が追いつかない状況が続いており、賃金格差が拡大している。AIの技術開発で米中に後れを取りつつある日本企業が、優秀な人材を確保するためにはこの賃金格差を無くす必要があると考え始めたのは当然だ。
日本企業の間で、優秀な技術者に高給を払うことが一般的になれば、日本企業の同士の人材獲得合戦も激しくなり、技術者の流動化はさらに進むことになる。テレビ局のアナウンサーが、人気が出ると局を辞めてフリーになり、高給で他局の番組に出演するように、優秀な技術者も、多くの企業のプロジェクトを高い報酬をもらいながら渡り歩く時代になるのかもしれない。アナウンサーが視聴率を気にするように、技術者も、自分が所属する会社の評価だけでなく、市場での評価を高める努力をする時代になってきた。
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