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日本の転勤問題――世界に倣い希望者のみに

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転勤は日本特有の制度だ。海外では経営層を除き、希望した人だけが転勤する。ではなぜ、日本は会社都合で転勤させるのか。

戦後の人口増加や高度成長を前提にした一括採用、終身雇用、年功序列という労働慣行が背景にある。一生雇用するならいろいろな職場を経験させた方が使いやすいというわけだ。その延長線上で、いつでも転勤可能な総合職が出世コースになった。だがこれは2つの点でゆがんでいる。

ひとつは、会社が「社員は地域社会と関係がない」と考えている点だ。でも実際は週末はサッカーチームで子どもに慕われているコーチかもしれない。人は地域とつながって生きている。

もう一つはパートナーだ。どうせ相方は専業主婦(夫)で黙ってついてくるしかないと思っている。このゆがんだ考え方の上に転勤という制度が成り立ってきた。(日本経済新聞
9月2日)

ダイバーシティ進化論というコーナーに掲載されたこの記事の筆者は、ライフネット生命創業者で立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏である。このコーナーに出口氏は定期的に執筆しているが、企業経営のプロによる論考だけに説得力が高く、毎回「なるほど!」と合点しながら読んでいる。

今回の転勤問題についても「家族の絆を断ち切る単身赴任」「非人間的な制度」「希望しない人に転勤させるのは制度によるパワハラ」と斬っている。

何人かの“転勤族”に聞くと、転勤については「うちの会社ではそういうものだ」と割り切っているが、自宅の購入と子供の転向に悩むことが多かったという。とくに子供の転向については「友達と仲良くなったタイミングで転校が繰り返されて、可哀そうなことをした」と吐露する人もいた。

社員が会社の都合によって、西へ東へ、北へ南へ、と駒のように動かされる転勤制度を支えているのは滅私奉公文化である。転勤辞令を拒めば昇進への道を断たれるから服従するのだが、これからは昇進よりも家庭を優先する社員が増えるだろう。

どれだけの会社が思考を切り替えられるだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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