2019/07/30
政府は6月、2019年度の「経済財政運営の基本方針」を閣議決定しました。そこでは「70歳まで働ける機会をつくる」とうたっています。国の懐事情が苦しい中、国民は長く働くことで貯金を増やしたり、年金をもらう期間をより短くしたりしてほしいというのが本音のようです。
「実際には、すでに4割近くの人が70歳になっても働いている」と指摘するのは、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎主席研究員です。18年の70歳の就業率は36%。平均退職年齢もここ数年上がり続け、18年には69.9歳になりました。「健康寿命が延び、まだ上昇の余地がある」と話します。
(中略)
どんなふうに働いているのでしょう。一橋大学の小塩隆士教授に聞くと「アベノミクスで増景気回復や人手不足などにより仕事が増えたことが背景にあります。こうした中、思わぬ事態も起きています。仕事中、けがをする高齢者が増えているのです。
厚生労働省の統計によると、労働災害による死傷者のうち、60歳以上は18年に約3万3千人になりました。すべての年齢のうち26%を占めます。10年前に比べ、約1万人増えました。「働く高齢者が増えて事故も増えている」(厚生労働省)そうです。
(日本経済新聞 7月22日)
いまの60代は元気であるとはいえ、たとえ元気に見えてもあくまで60代である。体力の衰えはゴマカシがきかない。70以降も雇用を継続している会社では、1年ごとに健康診断結果に基づいて勤務内容と勤務時間を決めている例もある。
高齢者の就労では、健康問題だけでなく運転免許もネックになっていく。免許証を返納して移動手段を成約する一方で、就労はつづけるという矛盾した状況が広まりつつあるのだ。免許を返納してからも就労をつづけるには、地方では公共交通機関の整備が不可欠だが、電車もバスも便数は減る一方である。
政府が提唱する生涯現役社会実現策は、移動手段の減少にどのようにして折り合いをつけるのだろうか。人手不足解消、公的年金支給時期の延期に対応する手段として生涯現役が掲げられているが、移動手段を確保できなければ、人手不足にも年金問題にも打つ手を失ってしまいかねない。
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