2019/06/26
投資が失敗続きの農林水産省所管の官民ファンドが、役員の報酬や退職慰労金を運用成績に左右されない全額固定額にしていることがわかった。常勤役員の報酬は毎年2千万円ほどだ。退職慰労金は、6億円超を投融資した会社が経営破綻(はたん)した案件を扱った役員でも満額の1400万円が支払われる。結果責任を問わない報酬の仕組みに疑問の声が出ている。
このファンドは農林水産物の生産から加工、流通・販売まで手がける「6次産業化」を後押しする目的の「農林漁業成長産業化支援機構(A―FIVE)」で、2013年1月に設立された。大半を政府が出資した319億円の資金を元手に、株式を購入するなどして企業を支援しているが、今年3月末時点で92億円の累積赤字を抱える。
昨年10月には、国産のブランド農産物の海外販路開拓を進めていた東京都内の会社が破綻し、出資金や返済の優先順位が低い「劣後ローン」の計約6億5千万円の多くが焦げ付いた。この案件を担当していたA―FIVEの役員は今月下旬に退任するが、1400万円の退職慰労金は満額支払われる予定だ。
(朝日新聞デジタル 6月17日)
これは「官」の利権は毀損されないという官製資本主義を象徴する事例である。莫大な利益を上げてもインセンティブが付くわけではないし、報酬規定に従った措置だから問題はないという認識なのだろう。倫理を求めても無駄である。
まして年俸2000万円、退職慰労金1400万円は、ともに億単位におよぶ民間の同業者に比べれば些少な額という理由で、損失を出したうえで満額を受け取ることへの逡巡もないのではないか。
業績を問わずに満額を受け取れることは、当該役員にとって利権である。民間からの批判がどうであろうと、手放すはずがない。そもそも民間とは常識の尺度が違うのである。「官」の行動基準は法令や前例である。弾力的な運用が必要な成果主義は適用されないため、報酬規定に抵触しなければ、満額は“正義”なのである。
民間企業なら赤字を出せば役員報酬や退職慰労金の減額は当然の措置で、上場企業の場合、減額しなければ株主にも社員にも示しがつかない。役員自身も就任時に減額リスクを覚悟し、減額時にもダダをこねる人はあまりいない。
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