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管理職への登用、断わる社員が増加

管理職になることを「ネガティブ」にとらえる人が増えた……という話をよく耳にするようになりました。

すでに管理職として活躍中の人には「管理職になれない人の言い訳にすぎないのでは」などと辛辣な意見を言う人もいますが、管理職への登用を打診しても「断る」社員がいるくらいに、ネガティブ派が増えたのは本当のようです。取材した大手食品メーカーの人事部長は、

「管理職になることが社員のモチベーションになるという前提を見直し、社員の処遇を考えなければならない時代になりました」

と答えてくれました。ただ、ネガティブ派が増えたのは会社の責任でもあります。かつて、管理職へ登用の「速さ」を社内の人事評価の高さだととらえることはよくありました。周囲も「あいつは同期でいちばん早く管理職になったから、優秀な人材だ」と認識したものです。ところがバブル崩壊からリーマンショックに至る経済不況で、管理職のポスト不足が慢性化。会社は管理職になれない社員への対処として

《管理職になることだけを期待していません》

といったメッセージを発信するようになりました。なかには管理職になることは大変で、一社員のままで働くこともいいことだよ、と管理職にならない働き方を推奨する会社もあったくらいです。
(東洋経済オンライン 4月10日)

(出世=偉くなること=人生の成功)という図式は、いまもなお通用しているが、徐々に弱まっているようだ。ポストで社員の心を釣れなくなり、会社側は、人参レース以外の環境を用意しなければならなくなった。

メガバンクに勤務する知人は、昇進が副支店長までだったので、50歳で事実上の定年退職をさせられたのちも再雇用され、本体での勤務を継続できている。知人はこう話す。

「支店長に就任すると40代後半に退職して、取引先に役員や部長として転職するのが通例ですが、転職先でうまくやっていけるとは限りません。本体に残れば再雇用なので給料は激減しますが、とりあえず60歳までは正社員として働けるので、安定はします」

若い世代がこうした現実を目の当たりにすれば、長く雇用されるキャリアプランを望むようになるだろう。ましてPDCAサイクルを廻しながら成果を追いつづけ、わずらわしい人間関係に翻弄されながら組織を統括することに、職業人生を捧げてよいのか。むしろ仕事そのものを満喫できる手段はないのか――そう思うようになると、管理職への登用を断わりたくなるものだが、それだけ勤め人の精神が成熟したのかもしれない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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