2016/11/25
今回はヘッドハンティング・人材ソリューションの問い合わせ相談の中でも、とりわけ中小企業のオーナー社長より問い合わせの多い、事業継承計画・後継者計画(サクセッションプラン)について解説する。
日本の高齢化が急激に進むなか、企業の経営者も例外ではない。
経営者の平均年齢は59.2歳と過去最高を更新しており、また、社長交代率を見ると、2015年は3.88%で、2012年以降3年連続で前年を上回っている。
経営者の高齢化に伴い今後も多くの企業で代替わりが加速することが予測される。
特に、中小企業は事業継続のための多くの役割を経営者自身の能力、実績に依存しているケースが多い。中小企業にとって、経営者の高齢化と事業継承は今後の企業の存続をも左右する大きな課題であるといえる。
2013年版中小企業白書(http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf)より
上記グラフは、企業の規模別、経営者の年齢別の経常利益の状況を示したものであるが、経営者が高齢になるほど、経常利益は減少している傾向が見られ、企業規模の小さい企業ほどその傾向が顕著である。このデータからも中小企業にとって、然るべきタイミングで事業継承を行うことが事業継続の要となることが伺われる。
当社でも年間5,6件は事業承継に関るご相談があるが、大変が60代後半~70代の創業者の引退に伴う事案である。今回はこれまでご相談の多かった事業承継局面で、サクセッションプラン(後継者計画)など人事組織面からどのような提案が可能かまとめてみた。
現社長 | 大学工学部機械工学科出身、創業オーナー。 |
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現状の役割 | 主力製品の機械設計、営業、サポート、経営管理すべての機能を立上げマネジメントしている。 |
今後の意向 | 67歳を迎え、35歳の息子に代替わりを計画している。 |
次期社長 | 大学経済学部出身、2代目の子息 |
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経歴 | 大手総合商社の機械事業部で海外営業と事業開発を経験後に家業に戻る |
現状のポジション・役割 | 役員として家業に戻ってからは5年目、営業部門管掌。 |
当面現社長は引退するわけではなく、サクセッサーへの引継ぎを完了した段階で社長交代、会長とし出社頻度を下げる意向であった。
当社は今後3-5年かけてスムーズな事業承継を行うための人事組織面におけるサポートを行うことになった。
(1)現社長と次期社長のスペックの違いを理解すること
(2)会社の機能を分化して、個の経営パワーから組織経営に移管すること
(3)現社長以外のサクセッサーの有無も確認すること
(1)現社長と次期社長のスペックの違いを理解すること
まず同社の組織であるが、製造業ではよく見られる、営業、開発、製造、管理の4つの機能分化されているシンプルなものである。
現社長の担っていた機能は、営業、開発、経営管理の3点である。元々自分で開発設計した機械を、営業しており、財務面や計数管理も自身で行ってきたため、工場を除くすべてのファンクションを横断的にハンズオンでマネジメントできるスキルセットを有していた。
一方次期社長は文系総合商社営業畑出身で、技術のバックグラウンドはない。そのため、現社長の担ってきた機能をそのまま次期社長に当てはめても、スキルセットの幅が異なるために、スムーズな引継ぎはできないのである。
往々にしてパワフルな創業者であればあるほど、自分と同じ能力を次期社長にも求める傾向が強いが、同社の場合は、担える機能の違いを認識し、次期社長には営業ラインを直接マネジメントし、開発、管理については別途マネジメントを据えることを決断した。
(2)会社の機能を分化して、個の経営パワーから組織経営に移管すること
これまで現社長は自身のスキルセットの幅が広いこと、全ての機能を実質的にゼロから構築してきた経験から、概ねすべての業務フローをハンズオンでプレイングマネージメントすることができていた。ある意味では「個の経営パワー」で会社が保たれていた状況であった。
一方で次期社長のスキルセットの幅は現社長よりも狭くなるために、当然そのままポジションだけ置き換えても機能せず、個別の機能別責任者を内部昇格、外部登用する必要があったのである。
結果的に開発、管理については外部からサクセッサーを採用、工場は内部昇格で経営チームを組織化することが決定された。
これまで実質的に全てを1人のオーナーで決断していた経営の仕組み自体を、組織経営に移管するには、各機能の担うべき役割、責任者の権限移譲など、様々な付随要素も確定し、役員会/経営会議を運営していく必要があった。
最も後継者である次期社長は大企業で組織経営のマネジメントスタイルを経験してきたために、そもそも新しい経営体制との親和性が高く、また心理的にも経営体制の移行ハードルは低く、スムーズな体制変更が行われた。
(3)現社長以外のサクセッサーの有無も確認すること
最後にもう一つのチェックポイントは、現社長が高齢ということは、それまで同社を支えてきた幹部も軒並み高齢化している可能性が高い点である。
同社も例外なくこの点は該当し、開発部門の責任者は60代に突入し、定年延長して部門長継続しており、管理部門長も5年以内に60代に突入する状態であった。
これまでは小さな組織を志向してきたために、特別サクセッサーとなる候補もおかず、プレイングマネージャーとメンバーで構成された組織であり、個別機能の責任者もサクセッサー不在であった。これは中小企業においては実際かなり多く見かけるものである。
結果的に工場以外の機能別責任者も事業承継のタイミングと同時に確保することが決まった。現社長が全面的にハンズオンでカバーしていたために見えにくかった問題が明らかになったのである。
本論は2つのフェーズに分けて議論する必要があるだろう。サクセッションプランを作成する前工程、実際にプランに基づき採用を行う後工程である。
(1)前工程:サクセッションプランの作成
(2)後工程:実際の採用活動
(3)ヘッドハンティングを活用するメリット
(1)前工程:サクセッションプランの作成
前工程は本来事業会社が内部で独自を作成することが望ましい。但し、現社長と次期社長のスペックやスキルセットの違いが客観的に評価されずに、そもそも難しいサクセッションプランを企画しても、なかなか計画通りに運用されることはない。
例えば、今回の事例では、個の経営から組織経営に移管したが、一方で次期社長が現社長と同じような業務経験を積むまでの間の、つなぎの経営トップを招聘するというプランも計画できる。
しかしながら、特殊な事業領域であればあるほど、バトンタッチされてすぐに滞りなく事業運営できる人材は労働市場にはいないのである。自ら設計し、自ら売り、自ら管理するという、創業者以外はほぼ実現不可能な要件となるが、「世にいない人」を探すことは不可能である。
また、サクセッションプランの作成というのは、そう何度も1つの会社で発生することはなく、社内にプラン作成や実際の事業承継を経験している人材は少ない。一方で外部にはこういった事業承継のサクセッションプラン作成から後継者採用・定着化までの一連の流れを年間何度も経験している専門家もいる。
専門家の意見を全て取り入れる必要など全くないが、自社で計画したプランの整合性や実現可能性を評価する意味で、外部の意見を聞く姿勢は持たれた方が良いだろう。その意味でヘッドハンターでも誰でもいいわけではないが、事業承継局面で、人事組織計画の前工程含めた経験者であれば、実行も含めた提案が期待できる。
(2)後工程:実際の採用活動
実際の採用活動は、要件、時間軸によって手法は様々取りうると考える。特段ヘッドハンティングだけが正解ではなく、一般の人材紹介会社を有効に活用して解決できることも多いだろう。
今回の事例に置いては、時間的に緊急度の高いポジション、ターゲット企業が明確なポジションのみをヘッドハンティングを活用し(開発部長)、時間的に余裕のあるポジション(管理部長)は人材紹介を活用することになった。
開発部長は既に定年延長中であり、現職者も長くとも2年以内に退職の意思を持っていたことから緊急度高く、また求められる要素技術の幅を踏まえるとターゲットとなりうる会社も特定することができた。
一方で管理部長は、現職者が定年まで5年程度あり、人事総務・財務経理のジェネラルな職種のために、広く募集を掛けることが可能だったためである。
(3)ヘッドハンティングを活用するメリット
事業承継時にヘッドハンティングを活用する、ヘッドハンターに相談するメリットは以下のとおりである。
- サクセッションプランの客観的合理性、実現可能性の確認
- 予め時間軸が決まっているポジションの確実な人材の確保
- 採用ターゲットが明確で、一般的な求人市場に対象者がいないポジションでの人材の確保
なお、前提として、ヘッドハンター個人が事業承継案件を経験していることは忘れてはいけない。誰でもいいわけではないので、相談相手は選んでください。
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