2013/12/20
年末になると当社では”季節もの案件”が舞い込んできます。
「上場会社の監査役、社外取締役」といったポストです。当社では毎年2-3件お問い合わせがあり、人材をプレイスメントしています。
日本の上場企業は従来は3月決算が圧倒的でしたが、東洋経済の記事を拝見すると「12月決算の会社は302社」あるそうです。
302社――12月を決算月とする上場企業数
12月を決算月とする企業の決算発表が本格化している。これまで日本の上場企業の決算期といえば、3月期が圧倒的に多かった。だが最近は、12月期が増え ている。2012年に12月を決算月とした企業は302社に上り、15年前に比べ41.7%増。全上場3571社に占める割合は8.5%に達し、15年前 の6.5%から2ポイント上昇して、過去15年間で最高となった。
12月決算の会社であれば総会は3月、3月決算であれば6月総会ということになります。監査役、社外取締役はいずれも株主総会の決議事項です。株主への招集通知を出す前に、人材を確定する必要があります。
そのため年末から年始にかけて、独自に適当な人材を見つけられなかった会社は当社のようなエージェントに依頼されるという訳です。
さて、師走ですので年内の色々なことを思い出しますが、私が衝撃を受けた事件の一つは「雪国まいたけの不適切な会計処理問題」です。
11月初頭ですが、大平喜信社長が経営責任をとって辞任していますが、2期連続の大幅赤字、粉飾決算、オーナー社長の辞任に至るまでの一連のプロセスには驚きと内情を窺い知ると「あぁやっぱり」の連続でした。おかげでIRページは訂正の雨嵐になっております。
雪国まいたけ事件の顛末は東証へ提出した「改善報告書」で確認することが出来ます。
ストーリーは池井戸潤の小説を思わせるようなドラマ性があります。退任取締役から監査役への内部告発から始まり、滋賀工場の土地取得の際の資産計上と広告宣伝費用の複数に渡る不正会計処理、創業社長の強烈なリーダーシップと重圧による暗黙のプレッシャー、イエスマンで固められた取締役会、機能しない監査役会と内部統制、そして記憶に残るのが「私たちは出来ない理由を探しません!出来る理由を見つけます!私たちは妥協しません!許しません!」という行動指針。
業界が長い方であれば、「雪国まいたけ」はちょっとしんどい銘柄として記憶されているかもしれません。同社は驚くほど役員も幹部も入れ替わる、誰が入っても2年と持たない、某SPA大手や某モータ会社もビックリな企業でした。ハイクラスを取り扱う多くの初回会社が1度はお世話をしたり、お世話しかけたりしていたように思われますが、読者の皆様も思い当たる節はありませんか?
この雪国まいたけの事件で浮き彫りになったのは監査役の無力さです。改善報告書では監査役会の問題点について以下のように言及されています。
(9)監査役会の問題点
監査役会は、平成24年4月に前社長、取締役会及び執行役員宛に監査役の所見として平成24年3月期の赤字になった原因等を踏まえた会社の問題点について、監査役会から書面による意見具申が行われました。その内容は、「コーポレートガバナンス」「組織運営問題」「資金繰り」「会計処理関係(今回の広告宣伝費の計上方法を含む)」「労務安全」でありました。
そうです、監査役会はちゃんと一連の問題に対して懸念を提起しているのです。それにもかかわらず、この監査役会の意見は反映されず、会社は改善の機会を失ってしまいました。
最も監査法人は何やっていたのだろう?と思い調べてみると、「監査法人ナカチ」(すいません、聞いたことなかった)の中地宏さんという方が監査報告書にサインされています。この方は元日本公認会計士協会会長だったようで、ご挨拶では「企業倫理にかなった信頼と協業は大きな力を生む」と謳われています。
中地さんが「私たちは出来ない理由を探しません!出来る理由を見つけます!私たちは妥協しません!許しません!」という企業倫理のクライアントを信頼され協業されたのだと思うと、何だか晩節を汚してしまったような気もします。
ここからは多少ぶっちゃけますが、「上場会社の監査役会は機能しているのか?」と考えると、大手はほぼ機能していない、中小はかなり全うなのではないか?というのが私の認識です。
大手企業の監査役ポストというのは、良くも悪くもアガリのポストです。JSOX施行後に様々な仕組みが導入されており、一部には非常に素晴らしい監査役の方もいらっしゃいますが、現実的には長年会社に勤めてきて最後に華を持たせてもらったと思われている方がまだまだ多いと思います。
そしてなぜ大手が機能していないと判断しているかというと、大手企業は監査役は監査の実務は行わず、監査役スタッフが大勢いて、いわば従業員が監査の実務をやっているからです。
従業員が会社に対して楯突くことが出来るのだろうか? 内部告発して会社が無くなったらどうやって生きていけばいいのだろうか? 大手企業の従業員ほど会社へのロイヤリティは高いので絶対にそんなことはできないだろうと感じています。
内部告発を行った社員や監査役が会社の救世主として持ち上げられることは、日本企業の共同体の中では考えにくいことなのです。
まさにこの点が日本の監査役システムの限界であり、海外の投資家からコーポレートガバナンスについてボロボロではないか!と突っ込まれるのは至極当然なわけです。
一方中小企業、特にベンチャー企業の中には”時々”非常に優れた監査役や社外取締役の方がいらっしゃいます。ベンチャー企業の未熟な経営者に対して踏み外さないようなレールを敷く、創業者一族に対して牽制を効かせている方もいます。中には誰もが知っている一部上場企業の創業社長が詐欺に引っかからないように事故を未然に防いだ方もいます。
これらの方々に共通するのは、そもそもサラリーマンではないこと、経営者として経験豊富なこと、そしてお話しすると枯れていないこと、エネルギー溢れていることがはっきり分かります。
監査役はある意味では誰にも監査されないし、取締役の執行を強制的に差し止めることもできる、株主総会以外は解任もできない「ジョーカー」みたいな存在なので、そんなポストにギラギラ感のある方を据えるというのは、好き放題やりたい経営者としてはなかなか勇気のいることです。
ただし、このような「枯れていない」監査役は実はオーナーも含めた株主のために、会社にとって必要な苦言を呈することができ、最終的には公開会社としてのリスクを管理する生きた仕組みになるのだと思います。
長々書きましたが、私は「監査役なんて要らない」とか言っている訳ではないので、コーポレートガバナンスや内部統制にお悩みの方はお気軽にご相談頂ければと思います。
12月決算の会社さんは間に合わせるのは難しいですが、3月決算であれば間に合います。
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