2014/08/15
誰でも資金調達ができ、誰でも起業できるようになった今日、日本には数十万もの企業があり、数千もの様々な証券取引所への上場企業がある。その多くの企業のすべてが健全な経営ができているわけではなく、証券取引のシステムが発展していくにつれて、上場企業にとっては命とも言える株価を操作するために粉飾等を行う企業もでてきた。
2006年のカネボウ事件、ライブドア事件、2011年のオリンパス事件は、その粉飾の規模が大きく、悪質であったために大きな注目を浴び、混乱を招いた。私は、このような事件で、粉飾をした会社だけでなく、会社の財務諸表を監査する監査法人も批判されていることに興味をもった。
会社と同様に解体した監査法人もある。会社は営利活動をしているため、いつでも粉飾等をする可能性がある。それをチェックする機関としての監査法人は今どのような状態にあるのか、以下では、監査法人の売上増減率、会計士比率と一人当たりの売上の二つの観点から考えていく。
監査法人の売上は、リーマンショック以降の景気の低迷による被監査会社の減少が大きな要因となり、全体的に減少傾向にある。
また、オリンパス粉飾事件等の影響による監査に対する信頼の低下を防ぐために公認会計士協会や公認会計士審査会(金融庁)のレビューが厳格化したため、これに耐えられる規模にない中小監査法人の経営は苦しくなり、より大きなマイナス成長となっている。
売上増減率のワースト3位までの監査法人は、従業員数で見ると東京商工リサーチに開示してある40監査法人中それぞれ24位、25位、19位となっており、中小監査法人と言えるであろう。
売上の若干伸びている監査法人もあるが、増加率一位の仰星監査法人は、合併での売上増によるものである。中小監査法人の上場企業のクライアント数の差は小さく、競争が激化しており、仰星の他にも合併をする中小監査法人が多くなっている。
また、比較的売上の安定している監査法人は海外の会計事務所と提携している、または会計グループが多く、監査法人の世界でもグローバル化が進んでいる。
下図は横軸に従業員数から見た会計士率(%)、縦軸に1人当たり売上高(千円)をとった散布図で、東京商工リサーチに開示してある40監査法人から従業員数も会計士数も最少の5人である監査法人を抜いた監査法人でみたものである。
これを見ると、会計士率と一人当たり売上高には負の相関関係があることが分かる。監査法人の売上のほとんどが公認会計士の監査や財務コンサルタント業であるが、その比率が低い方が一人当たりの売上は大きくなっている。
また、3大監査法人と言われる新日本、トーマツ、あずさはすべて会計士率が70%台で、一人当たり売上高は1500万前後である。
このような結果となる要因としては、会計士以外のサポートスタッフが多い方が結果的により多くの監査等の仕事が可能となるからだと考えられる。
売上増減率に見られるように、中小監査法人は公認会計士協会や公認会計士審査会(金融庁)のレビューの厳格化に耐えられず経営が苦しくなっている。これには、サポートスタッフの割合が少ないためにレビューへの対処が遅れることも関係しており、ここでも中小監査法人の状況の厳しさがわかる。
前節までの分析の結果には、一連の流れがあった。景気低迷に伴う被監査会社の減少によるクライアントの競合激化、そして様々な粉飾事件を防げなかったことによるレビューの厳格化が原因で売上は減少し、レビューに耐えるには会計士以外の多くのサポートスタッフが必要となる。
この流れを見ると、サポートスタッフを多く雇えない中小監査法人はクライアントの減少とレビューへの対応の二つのダメージを被ることになる。昔から監査法人は解体や合併を繰り返してきたが、現在のような状態が続くと、地域密着型の小規模の監査法人、または安定した基盤をもつ大手、準大手監査法人しか生き残れないのではないか。
しかし、上場企業がいる限り監査の需要は一定水準以上必ずあるため、企業側はただ選択肢が少なくなるだけである。中小監査法人の合併は加速するであろうが、クライアントの流出を防ぐため、そして監査の信頼を取り戻すためにも会計士は自分の首を絞める結果になる粉飾の見逃しはせず、誠実な監査を心掛けねばならない。
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