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決算書から読み解く、人材派遣会社分析

1.はじめに

今回初めてブログを書かせて頂く、ジーニアスインターン3期生の高坂将大と申します。まず初めに自己紹介をさせて頂きます。早稲田大学創造理工学部経営システム工学科に在籍しており、研究室ではソフトウェア関連の研究をしています。来年4月から某人材会社に就職予定です。また、入社までに人材業界の心得や実務を経験出来るということで、7月末からジーニアスでインターン生として働いています。

2.目的

 


今回の目的は2つあります。

①人材業界(今回は派遣)の理解を深める
②収益性の観点からの財務分析の方法を理解する

今回人材業界に就職するに辺り、市場規模が最も大きい派遣に焦点を当て、各社が現状どのような状況なのかを理解を深めたいと考えています。その手段として今回は財務分析(主に営業利益率)を用いて各社を比較していこうと思います。

3.人材派遣の現状

 

出典:2014年10月15日「人材ビジネス市場に関する調査結果」矢野経済研究所

この調査では以下のことが記載されていました。

①派遣業界は2013年度において、3兆7800億円の市場規模となっている
②2009年度以降の市場縮小の原因はアウトソーシング化及び直接雇用化の流れが続いていること、また派遣スタッフ数が確保しきれていないことが挙げられる
③最大の課題は派遣スタッフの確保である

また、下の図は有効求人倍率の推移です。2010年から2013年まで有効求人倍率は増加傾向にあり、また2014年からは1を超えています。雇用環境が大幅に改善され、それに伴い派遣市場規模も増加すると思われますが増加していないということは、派遣スタッフの人数が増加していない(もしくは派遣スタッフの単価が上がり人数は減少している)ということが考えられます。
好景気で企業からの需要は増加していますが、供給(派遣スタッフの人数)が増加しないため、市場規模は横ばいとなっている可能性が高いです。また、今後も少子高齢化に伴い、従来の派遣労働者の中核となってきた若年層が減少するために、派遣市場はあまり増加が見込めないと考えられます。

4.人材派遣会社比較

※メイテック、テンプHDは「派遣事業」セグメントを参照
※パソナグループは各年度5月期を対象とし、「HRソリューション」セグメントを参照
※リクルートは「人材派遣」セグメントのEBITDAを参照

今回、比較対象として売上高トップ3のリクルート、テンプHD、パソナ、さらに営業利益率が高いメイテックを対象としたいと思います。人材各社の派遣事業は売上高が右肩上がりとなっています。その中でもテンプHDの2015年度の売上高は2012年度比で141.8%増となっており、他社に比べ好調でした(他3社は約123%増)。テンプHD 2015年3月期の決算短信によると「派遣労働者の募集活動や仕事掲載サイトの集客強化等が奏功した」と記載されており、派遣スタッフの確保により売上高が増加したと考えられます。

※メイテック、テンプHDは「派遣事業」セグメントを参照
※パソナグループは各年度5月期を対象とし、「HRソリューション」セグメントを参照
※リクルートは「人材派遣」セグメントのEBITDAを参照

次に人材各社における営業利益率の比較です。上の図から、メイテックの利益率が他社に比べ高いことがわかります。この理由としては、①稼働率が95%前後を推移 ②単価の高いエンジニア派遣に絞っているということが挙げられます。建設系に特化している夢真に関しても同様に高い利益率が確認できます。(建設業では人材不足が続く。「一級建築士事務所」登録しました。https://www.genius-japan.com/blog/kenchikushi/
テンプHD、リクルートは総合派遣会社であり、営業利益率は5%前後を推移しています。
一方パソナグループは1.5%前後(HRソリューションを対象としているが、派遣事業のみだともう少し低いと思われます)であり、派遣対象としては事務系(一般事務系、専門事務系)が約75%を占めています。

ここで派遣の利益構造についてここで確認したいと思います。派遣社員1人当たりの売上は(顧客への派遣単価)×(稼働時間)となります。またコストは(登録者を集めるための広告宣伝費)+(人件費)+(事業運営費)となります。人件費は派遣社員の給与や社会保険、事業運営費は派遣事業に携わる派遣会社の正社員です。これを踏まえたうえで、派遣事業の営業利益率が変動する原因を見ていきたいと思います。

派遣事業の営業利益率が低くなる原因としては①単価は変わらないが人件費が高騰し、利幅が薄くなっている ②労働者が紹介事業に流れることで、派遣社員が集まりにくく、広告宣伝費が増加している ③営業部門の生産性が低い、という点が考えられます。
①に関しては好景気の影響により各社人件費は高騰しているのではないでしょうか。しかしメイテックの単価は徐々に増加しており、業界平均の約1.4倍であるため高い営業利益率になっていることがわかります。単価をあげるためには需要のある技術者を派遣する(製造やITエンジニアなど)か、単価の高い顧客(金融や外資など)を確保することが考えられます。

②に関しては、派遣スタッフ確保のため広告宣伝費に各社力を入れているのではないでしょうか。その中でもテンプHDは広告の効果が発揮され、多くのスタッフを確保し売上高の増加が好調であると考えられます。今後も好景気により労働者は派遣から紹介に流れることが見込まれるため、如何に効果的な広告を最小限の費用で打つことができるかがポイントとなると考えられます。
③に関しては従業員1人当たりの売上高を比較してみました。

企業 セグメント (人) 売上高(百万円) 従業員1人当たり売上高
(百万円)
パソナ比
パソナグループ HRソリューション
(平成27年5月31日現在)
5,020 192,371 38.3 1.0
テンプHD 派遣
(平成27年3月31日現在)
4,500 276,164 61.4 1.6
リクルート 派遣
(平成27年3月31日現在)
14,151 675,200 47.7 1.2

上の表は派遣セグメントの従業員1人当たりの売上高を比較したものです。この表からパソナの生産性が低いことがわかり、その結果営業利益率が低く推移していると考えられます。またテンプHDはパソナより1.6倍効率的に売上を出していることがわかります。この生産性を向上させるためには従業員の営業力強化が必要であると考えられます。

5.まとめ

今後、派遣の市場規模はアウトソーシング化や直接雇用化の流れ、また少子高齢化による人手不足等により、増加はあまり見込まれないのではないでしょうか。その状況において派遣会社が売上を増加させるためには以下のことがポイントであると考えられます。
①現在保有している派遣スタッフの単価をあげる、もしくは単価の高い顧客(金融や外資など)を新規獲得する
②効果的な広告を打つことで派遣スタッフを確保する
③従業員の営業力を強化し生産性を上げることで、コストを抑える
また、改正労働者派遣法が派遣会社に実際にどのように影響してくるか、次期決算の結果が気になるところです。

最後に、今回は営業利益率から企業を比較しましたが、一番大切なのは如何に各派遣スタッフが自ら望む働き方を提供できるかだと思います。営業利益率が高くても派遣スタッフが満足に働くことができていないのならば意味がありません。また、営業利益率が低くても福利厚生等の充実により派遣スタッフが満足に働くことができているのであれば、社会への貢献性が高いと言えるでしょう。労働が多用化する中で、多くの選択肢を提供し一人ひとりが活き活きと働ける環境を提供できる会社が成長していくのではないでしょうか。

6.参考文献

[1] FS READING 決算書の読み方・財務分析のしかた http://fsreading.net/
[2] PASONAグループ IR情報 http://www.pasonagroup.co.jp/ir/
[3] テンプホールディングス IRライブラリ
http://www.temp-holdings.co.jp/ir/library.html
[4] MEITEC IR情報 http://www.meitec.co.jp/ir/
[5] リクルートホールディングス IRライブラリ
http://www.recruit.jp/ir/library/
[6] 人材ビジネス市場に関する調査結果 矢野経済研究所
http://www.yano.co.jp/press/press.php/001310
[7] 年収ラボ 有効求人倍率の推移 http://nensyu-labo.com/koyo_yukokyujin.html

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高坂将大

著者情報:
高坂将大

1994年東京都生まれ。早稲田大学創造理工学部インターン3期生。4月から人材会社に就職予定のため、入社までに人材業界の心得や実務を経験したいと思い、2015年7月からジーニアスに飛び込む。将来的には求職者側と企業側の双方から信頼されるキャリアコンサルタントになりたいと考えている。

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