ゼンショーホールディングス(HD)は6日、2015年3月期(通期)の連結業績予想を下方修正した。純損益は13億7000万円の赤字(従来予想41億8000万円の黒字)に転落する見通しだ。運営する牛丼チェーン「すき家」で人手不足により一時休業や深夜閉店する店舗が続出し、売り上げが大きく落ち込むためだ。純損益の赤字は創業以来初めて。(時事ドットコム 8月6日)
「すき家」の凋落が止まらない。原因となっているのは、過酷な労働環境とそれにともなうスタッフのストライキ。多くの店舗が人手不足により運営ができなくなったことは、何度もニュースなどで報じられた。そしてついに創業以来初の赤字転落、である。
これらの問題の元凶とされているのが、ワンオペレーション、通称ワンオペだったとされている。その名の通り、店舗業務の調理、接客、会計などをすべて1人に押し付けてしまおうという運営方法だ。誰が考え出したのか知らないが、今となればきわめて無謀な試みだったといえるだろう。
そこでふと思い出したのが、製造業などの現場で導入が進むセル方式だ。ご存じの方も多いだろうが、セル方式とは工程のほとんどすべてを1人に任せる生産方式。一見してベルトコンベア方式の大量生産に比べ非効率のように思えるが、習熟度に比例して作業効率が上がり、なにより生産者本人の達成感が大きいという点で歓迎されている。
ベルトコンベア方式の単純作業が人間性を阻害することは、80年も前にチャップリンも映画「モダンタイムス」で指摘している。
対してセル方式は、生産工程の初めから完成まで、ほぼすべてを作業者に任せる。それが達成感や意欲、さらなる向上心につながっていく。
ワンオペ方式は、このセル方式を真似たのだろうか? たしかに似ているようにも見えるが、決定的に違う点がある。それが動線だ。接客業の場合、調理、接客、会計はまったくの別オペレーションである。動線から考えると、注文を聞く⇒調理をする⇒牛丼を出す⇒会計をする、という流れの中で、作業者は調理場とテーブルカウンターを最低3回は往復する。その間に要する時間はおそらく2、3秒。計10秒くらい。全体でみれば、相当大きな時間ロスが生じる。しかも調理中に接客、会計もしなくてはいけないので、調理がいいかげんになるか、客を待たせることになる。そして料理はまずくなり、客はイライラし、スタッフは疲弊する。
対してセル方式は、組み立て、取り付け、ハンダ付けなどの作業はあるが、基本的に移動がないから当然動線もない、つまり時間のロスはない。同じ姿勢でオペレートできるから、作業に無駄もない。
ワンオペも調理がきわめて簡単・単純、短時間でできるものであれば、もしかしたら可能だったかもしれない。しかしワンオペと同時に導入した『牛すき鍋定食』がけっこう手間暇のかかるシロモノだったので、破綻にさらに拍車がかかった。これがキッカケでスタッフたちのストライキが起きたので、「鍋の乱」とも呼ばれているそうだ。
対してライバルの吉野家だが、同時期に導入した「牛すき鍋膳」は、調理方法を効率化し、器の形状までも徹底的に改良することで、大成功をおさめ、増税後にもかかわらず売上も急回復した。
準備不足といってしまえばそれまでだか、準備不足を準備不足と感じなかったボードメンバーの責任は大きい。方式やノウハウも大事だろうが、最終的に重要なのは現場の士気、やる気だろう。そしてそのベースとなるのが、作業者一人ひとりの達成感であり、成長への実感だ。これは何も牛丼に限ったことではない。今回のゼンショーの赤字転落は、さまざま業界においても、大きな教訓を秘めているといえるのではないだろうか。
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