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2015年3月期、人材業界決算まとめ、求人広告型が復活、リクルートは驚異の営業利益1000億突破

2015年3月期、人材業界は全体で110~120%成長

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2015年3月期の人材業界の決算がパソナ(5月決算)を除いて概ね全て出そろいました。昨年度の人材系上場会社の売上高合計は110%~120%で成長、売上高や営業利益で過去最高を更新する会社が多く、大変景気の良い1年だったようです。人材系(と私が勝手に括っている)全ての上場会社が黒字転換したのは 2007年からこの調査をして初めての現象です。

昨年度を振り返るとマーケットの成長は3つのファクターによって実現されたように感じます。

① 広告課金ビジネスの復活(求人広告)
② 高い有効求人倍率の推移(人材紹介)
③ 派遣単価の高騰(人材派遣)

一つひとつの要因については、個社の事例を取り上げながら、後ほど分析したいと思います。

2015年度決算(38社)まとめ、リクルートのパワーを実感する指標(恣意的な)

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ジーニアスでは学生インターンシップを受け入れてから3年目、現在は4年生1人、3年生3人が新鮮な空気を発しながら仕事をしています。当社は新卒採用は行っていないため(今後もその予定はない)、学生の皆さんにはこのインターンを通じて業種や職種を理解した上で就職先や仕事を選び社会に出てほしいと考えています。

この人材業界決算検討は昨年は卒業した菊池智博君が、今年は縄田桃子さんにお手伝い頂いてまとめています。人材系38社(リクルートは販促メディアを抜いた数字)をまとめていますので、ご関心ある方はご自由にご利用ください。

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毎年リクルートの人材業界におけるパワーと影響力というものを何等か定量化できないものか?と考えて、あれこれ数字をいじっているのですが、今回もなかなかにエグい比較ができました。
2012年度、2013年度、全上場人材系企業の内、リクルートの売上高割合は40%以上、利益では60%以上でした。

昨年度の統計は、パソナの5月決算発表後に取りたいと考えています。なお、パソナはその売上高に対して利益率が1%代と極めて低く、利益に関してはほぼ影響はないと思います。事実、第3四半期時点でも営業利益率は1.4%と全く振るわない状況は続いています。

もっともアデコやランスタッド、マンパワーといった外資系や、人材紹介の過半を占めるであろう未上場会社が含まれていないために、実際はこの半分くらいのシェアになると思いますが、それでもリクルートが人材業界全体の20%程度のシェアがあり、相当なパワーと影響力があることは分かります。

広告課金復活、ディップが売上・利益過去最高を更新、エン・ジャパンも好調

さて、ここからは各ファクター、個社の分析です。
昨年度は求人広告媒体、特に広告課金型のディップやリクルート人材メディア事業、エン・ジャパンが大幅に収益を拡大しています。対照的に先日も「リブセンスが遂に赤字突入、順調に伸びる販管費、頭打ちの売上高」で触れましたが、成功報酬型のリブセンスは大幅に利益率を下げており、2015年1-3月(1Q)は赤字に転落しています。

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広告課金型の事業モデルを中核とする会社の中でも、特に目覚ましい実績を残したのはディップです。
ディップは売上高195.3億円、営業利益48億円といずれも過去最高を更新しています。特に営業利益は昨対30億円伸ばしており、営業利益率も24.6%を記録しています。リーマンショックの際には売上、利益ともにドカンと落ち込み、当時は転職サイトはディップの若手営業で溢れていましたが、それも今や完全に過去の話となっています。

そして元々の給料がいくらなのか分かりませんが、2年間で134万円も従業員給与が上がっており、社員の方々にも利益は還元されているようです。もっとも株価は2年間で1717.7倍になっているようなので、もっと還元してもいいのではないか?とも感じます。

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同様にエン・ジャパンも好調を維持、売上高189.4億円(対前年117%)、営業利益39.5億円(対前年119%)、営業利益率20.1%を達成しています。買収したエン・ワールド(人材紹介)が入ると分かりにくいので、こちらは採用事業のみ(求人媒体)に着目しましたが、対前年10億円積み増していることが分かります。

求人媒体運営企業は、広告単価×掲載数が売上を考える上での係数になりますが、私はここにもう一つ「求人未決定割合」も付加するべきではないかと思います。現在のように求人が満ち溢れるた場合、当然個別求人の採用決定率も下がります。そうなると多少コストは張ったとしても、媒体の掲載を継続せざるを得ない求人企業が増えます。昨年度はまさにそのような求人掲載期間の長期化が、これらの求人広告運営企業の売上、利益増につながったものと考えます。

しかしながら、これらの求人広告課金型企業が今後も堅調に成長できるか?というと、実は非常に危機的なタイミングです。Indeedはリクルートが戦略的に日本でサービス開発を遅らせている訳ですが、クリック課金のクローラー型の求人サイトが主流になった場合には、広告課金型のこれらの企業はその存続が危ぶまれる可能性があります。経営環境の良い今こそ対策を講じるべきと考えます。

高い有効求人倍率、JACは利益率28.7%で業界NO1、インテリも善戦

昨年度の有効求人倍率は通期で全国1.11倍(前年は0.97倍)を達成、有効求人は前年度に比べ5.5%増、最高は東京都の1.65倍を記録しています。これは特に人材紹介を主力とするJACやリクルートHD傘下のリクルートキャリア、テンプHD傘下のインテリジェンスなどすべての会社にとって追い風であったと考えます。

なお、時々質問を受けますが、ジーニアスのようなリテイナー型の企業は、実はこういった有効求人倍率(要は景気ですね)の影響は少ないです。好況時には新規事業開発や事業拡大、海外展開に伴うニーズ、不況時にはターンアラウンドや不人気業種の今こそ攻めのスカウトニーズ、そして景気に関係なく外資系経営ポストの欠員補充や事業承継(後継者獲得)ニーズがあります。

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さて、個社の分析に戻りますが、昨年度はJACが売上高92.7億円、営業利益26.6億円、営業利益率28.7%と素晴らしい実績を残しています。人材系上場企業でNO1の収益率であり、500人のエージェント部隊を抱えた実業(別に広告が虚業って訳ではないのですよ)を運営している企業としては見習うべきものが多いのではないかと感じました。

JACのような成功報酬型人材紹介の売上は、ご存知の通り「単価(決定年収×料率)×決定人数」というシンプルなものです。JACの基本料率は30~35%と固定であり、変数は決定年収と決定人数となります。

決定年収と有効求人倍率が必ずしもリンクする訳ではないのですが、昨年多くのエージェントが「サラリーで競り負ける」という経験を数回はされていると思います。有効求人倍率が高まると、それだけ1人の求職者に案件が集中するために、内定が複数出て、その中で条件の良いものを選ぶことが増えます。そのため、市場原理が働き、提示年収が上がる傾向は強かったのではないでしょうか。

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また、決定人数についても434人のコンサルタントを全国の営業所に展開しており、昨年度は4481人の採用決定を達成、概ね1人/1月というのは中小エージェントの皆様にとってはなかなか羨ましい数字と思います。

今後の事業戦略ですが、JACの場合はシンプルで、既存の人材紹介モデルを国際的に横展開すること、そして良質なコンサルタントの確保と単価向上を目指しているようです。業界別にすると、どの業界の比率が高いのか?などは興味深いのですが、資料では確認できませんでした。(あとIR資料がすごく見にくいので、来年はもう少し見やすいものにしてほしいです。)

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続いてテンプHD傘下のインテリジェンス紹介部隊(キャリアセグメント)ですが、こちらも売上高335億円、営業利益51.3億円と好調です。売上高を前年対比50億円積み増しており、成功報酬ベースの人材紹介モデルでの瞬発力はさすがの一言です。

また、特に当初は取り上げようと思っていなかったのですが、偶然目に入ったメディアセグメントでは、今や唯一の求人系紙媒体となってしまったanが202.6億円売っています。利益は3.2億円と相変わらずの低収益体質です。

一時期もう紙媒体ごとanも止めてしまおうか!という噂も耳にしていたのですが、一応首の皮一枚で生き延びているようです。

派遣単価高騰、派遣時給は過去最高1594円、夢真が利益率14.2%で派遣NO1

haken最後は派遣です。主要人材会社の派遣事業売上はいずれも前年対比プラス成長しています。
この領域では特に建設業に専門特化している夢真HDの成長が目覚ましく、連結の売上高164.8億円(対前年131.5%)、営業利益18.5億円(対前年151%)、派遣会社ではNO1の14.2%の営業利益率を記録しています。ちなみに2位はメイテックの8.7%です。

実は私は派遣事業は未経験のために派遣については深いことを話せません。そのため大した分析はできないので極々手短にまとめます。

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リクルートジョブズが毎月発表している「派遣スタッフ募集時平均時給調査」を確認すると、派遣社員の平均時給は三大都市圏で約1600円となり過去最高を記録しています。

2014年 年間派遣社員実稼働者数等の傾向(日本人材派遣協会)
(全地域)全地域で見ると、全ての月で対前年度同期比が100%超となり、結果として年間平均も同調査開始以降初めて100%超となった。また、第4四半期には、全ての地域で対前年同期比100%超となり、地域間差はあるものの、全地域で実稼動者数は増加傾向にある。

また、その稼働率については人材派遣協会の年度レポートでは実稼働100%となっています。派遣単価の高騰、稼働率上昇を背景に各社は非常に好調な決算を記録しているものと思います。

なお、製造業の技術者派遣領域では徐々に1位とそれ以外の会社の格差が拡大しており、メイテック(821.3億円)が2位のアルプス技研(201.6億円)3位で未公開のVSN(176.6億円)に4倍以上の差をつけています。同領域はリーマン前まではある程度この3社に加えてクリスタル系企業が設定ましたが、完全にメイテック独り勝ちが確定した模様です。

長くなりましたが、このくらいで。リクルート社については後日個別に分析予定です。

当事者の方々からのご意見もお待ちしております。
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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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